明治時代の日本に近代建築がお雇い外国人の手によってもたらされて以来、数多くの日本人建築家や技術者が海外から最先端の知識や技術を学んできた。時代は移り、近年では建築設計事務所の海外展開が拡大するのに伴って日本の建築設計事務所で働く外国人技術者やインターン生が増加し、設計事務所内部でも急激なグローバル化が進んでいる。日本で学ぶ若手技術者が期待するものとは何か。そして日本人スタッフの受ける影響とは。今夏、海外から技術者とインターン生を受け入れた3つの建築設計事務所に聞いた。
日建設計では、ドイツの建築雑誌『バウマイスター』との協働プロジェクトとして、インターン生のフィリップさん=写真右=を7月から受け入れている。日建設計をインターン先として選んだ背景には「巨大組織の運営やデザインがどのように決められているのかを知りたい」という思いがある。ドイツは「組織設計事務所」という枠組みに馴染みが薄く、その組織の動き方に大きな関心があるという。現在は学生だが「将来はドイツで個人事務所を経営したい」という希望もあり、日本での留学を決めた。技術的な面では「大規模で環境に配慮した建築を学びたい」とし、芸術的なデザインよりも環境技術に興味を示す。
インターン生の指導を担当する設計部門設計部の佐藤隆志さん=写真左=は「日本人の認識とは違った視点がある。日本人が共有しているものが崩され、デザインや設計がドライブしていく」と受け入れ側の影響を語る。日本人のコミュニケーションスキルの向上という効果もあり、「もっと受け入れても良いのではないか」と考える。
三菱地所設計で学ぶシンガポールからのインターン生、左からアレックスさんとチンさん |
建築デザインに惹かれて日本を訪れる事例もある。三菱地所設計は、シンガポールの大学で建築を学ぶアレックスさんをインターン生として受け入れた。「日本で学ぶことはこれから私が建築を設計する上でこれまでにない経験になる」とし、「日本の建築を理解したい」と話す。特に建築デザインについての議論や決定のプロセスに興味を持つ。
同じくシンガポールのインターン生であるチンさんは、将来は建設分野ではなく、不動産やホテル経営といった分野で働きたいという。アジア最大級の不動産会社キャピタランドでもインターンを経験したが、将来の夢を実現する前提として建築の知識を身に付けたいと語る。
必ずしも将来にわたり建築にかかわるとは限らないインターン生だが、その受け入れ側にはやはり、考え方の違う人間が入ることによる刺激が大きな意味を持つようだ。2人の指導を担当した海外プロジェクト室意匠担当の鬼頭亜実さんは、「シンガポールの風が吹いた」と振り返る。
山下設計で学ぶ研究者アングゥットさん(左から3人目)とディンザーカンさん(4人目) |
山下設計は、科学技術振興機構による日本とアジアの科学交流事業「さくらサイエンスプラン」に参加し、ミャンマーのヤンゴン工科大学から構造・設備分野の研究者を招いた。病院や大学などの現場や伝統建築の見学を実施した。機械工学を研究するアングゥットさんは、「設備には人々の安全で快適な空間を設計する義務がある。日本で学んだ知識と経験から設備の役割を学生に伝えたい」とし、学生に日本への訪問を勧めていきたいと語る。
直接的な仕事に結びつくとは限らないインターンや研修の受け入れだが、それをきっかけに日本への関心や興味を高める役割を果たしている。日本の高い技術力、きめ細かな設計力は着実に世界に広がっている。
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