2012/01/19

図書館設計のルールブック『図書館空間のデザイン』を執筆/益子一彦三上建築事務所代表インタビュー

 著書『図書館空間のデザイン-デジタル社会の知の蓄積』は、図書館の設計では歴史を持つ三上建築事務所代表・益子一彦氏が書き下ろした「建築論」だ。いまも試行錯誤しているという建築の継続性を中心とした建築のあり方が、1冊の本にすることによっておぼろげながら浮かんできた。クライアントが変わっても、建物が存在する限り建築家は個人で責任を負わなければならない。だからこう考える。「闇雲かもしれないが、必要なのはある種信念のようなイマジネーションではないだろうか」。形のない制度(機能)を入れる容器としての建築からの脱却。そこにイマジネーションが必要だと説く益子氏に聞いた。

 三上建築事務所は、水戸市に本社を構え、北海道から九州まで全国で図書館設計を手掛ける。益子氏はそのほとんどに携わっている。
 著書は図書館設計の第一人者としてデジタル化の流れも含めて、「知」のあり方に言及しているが、一建築家の建築論といえるもの。
 建築の基本的な原理として言われるのが、制度(機能)など形のないものを入れる容器である。図書館でいえば、学校、教育という制度の容器(場所)として図書館がある。

・建築の継続性

 「形のないものを入れる容器として建築は成立するというのは間違いない。でもその形のない機能で建築の寿命が決まらないのは明らか。また、建築はクライアントが変わっても、建築家の意思で壊すことはできない。でも、建築家は建物がある限り個人で責任を持たなければならない。だとすれば機能にぴったりとした容器を造ってしまうことは建築の継続性の責任を果たす上で違っているのではないかと考え続けてきた」
 これは、クライアントの考える機能に沿って建物を造ることに絶対性はないということだ。著書ではその建築の存続の方法について「基本的には建築の骨格をその場所のインフラとして造ることが一つ」であろうとしているが、それが「着せ替え人形」のようになってしまうことを危惧(きぐ)する。そこに、建築家の存在する意義がなくなるからだ。
 そうした建築の継続性について、いまも考え続けているという。
・形のないものの容器としての建築からの脱却
 「著名な建築家、ザハ・ハディドに注目している。ものすごく多種多様なプロジェクトを手掛けているが、出来上がったものはみんなザハの建築になっている。そしてクオリティーにムラがない。見えないルールのようなものがザハの建築にはある。スライムのように何でも吸収する弾力性を持っている。もしかすると、そういうところに答えがあるのかもしれないと思っている」
 自身では、継続性を担保するためにはイマジネーションが重要だと考える。「建築家は個人で責任を負わなければならないのだから、闇雲かもしれないが、ある種の信念のようなイマジネーションが大切だと思う」
 本を書くきっかけは、「基本的に成立しない」図書館が多かったから。ルールブックを、と書き始めた。そこから建築論に発展し、持続的な建築の行方が見えてきた。
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