2012/01/05

仙台空港に大型コンセッション初導入か/本格復興へ民間活力

東日本大震災で被災した仙台空港を、民間の力で活性化させようという動きが表面化してきた。宮城県は、改正PFI法に盛り込まれたコンセッション(公共施設等運営権)を導入し、民間ノウハウで戦略的な空港経営を実現したい考えだ。空港周辺の地域開発も進め、国内外からの集客や雇用創出、地域活性化と本格復興を目指す。コンセッションは当初、関西国際空港と大阪空港の経営統合に導入されると目されていたが、仙台空港の方が先に動き出しそうだ。
 昨年12月12日、宮城県の村井嘉浩知事は東京・霞が関を訪れ、仙台空港の民営化などを含む要望書を前田武志国土交通相に提出した。民間の資金やノウハウを活用して仙台空港ビル、仙台エアカーゴターミナル、仙台空港鉄道の第3セクター3社を一体的に運営し、空港周辺地域の開発も進める構想だ。民間に仙台空港が持つ潜在能力をフルに引き出してもらう考え。知事は、国に対して積極的な協力を求め、国交相もこれに応じた。

浸水した仙台空港の到着便表示板
◆商社など複数の企業に事前相談
 県が民営化を進める狙いは、発着料の引き下げによる便数の増加だ。そのためには空港単独ではなく周辺開発なども進め、国内外から人を呼び込んで地域を活性化する必要があると判断した。空港アクセス鉄道の利用客も増えると見込む。
 13日に村井知事は宮城県庁で記者会見し、商社など複数の企業に事前相談した結果、事業化に向けて好感触を得たことや、コンサルタントからアドバイスを受けていることを明らかにした。「民間企業が関心を持つかどうか、事前にヒアリングする必要があった。そのまま(相談した企業に)お任せするという意味ではない」と知事は釈明した。
 ある企業の幹部は「当社に相談はなかった。水面下で特定の企業だけに話を持ちかけるのは不公平。正々堂々と意向調査すべきだ。結果として官製談合にならないよう祈りたい」と皮肉たっぷり。
 この企業も含め、既にさまざまな企業が仙台空港のコンセッションに熱い視線を送っている。

◆赤字体質からの脱却が課題
 復興のシンボルとして、また初の大型コンセッションとしての期待も高まる仙台空港の民営化だが、不安材料もある。羽田空港のPFIなどと決定的に異なるのは、マイナスからのスタートという点だ。仙台空港は震災から早期復旧を果たしたものの、利用客は震災前の水準に戻らず、減便や機材の小型化などを余儀なくされている。
 県は、3セク3社の一体的な運営を求めているが、仙台空港鉄道、仙台エアカーゴターミナルは、赤字体質からの脱却が大きな課題となる。
 12日に前田国交相との会談を終えた村井知事は、取り囲んだ記者団に対して「黒字の空港ビルだけの民営化ならお付き合いできない」と強調した。
 なかでも仙台空港鉄道は、「今後、数年内に経営破たんする」とささやかれていた中、震災で約33億円の被害を受けた。このため県は10月、鉄道会社が所有する土地と橋脚を買い取る「上下分離」を実施し、鉄道側はこの売却代金を借入金の返済に充てた。現在、鉄道会社は身軽になったが、その分の負担は県に重くのしかかっている。知事の発言の背景にはこうした経緯もある。
 知事は霞が関で「空港の周辺開発によって、全体を黒字体質にする必要がある」とも述べている。この点についてある企業は「周辺開発への依存度が高すぎるように見える。果たして開発事業で“一発逆転”となるかどうか。万一、開発が失敗すれば負の連鎖を招く」とし、静観する構えだ。まだ事業の枠組みは見えていない段階だが、県の構想には一定のリスクも潜んでいる。

昨年6月の復旧工事の様子
◆リスク増も経営の自由度高まる
 定例会見で、周辺開発構想の内容を質問された知事は、「まったくの白紙だが」と前置きした上で、「ホテルやアミューズメント施設なども考えられる。集客性に期待したい」と話した。一方、カジノ構想については、「事前相談した企業から『カジノをやるなら手を引く』と言われた。採算がとれず、協力会社も限定される。条件としてカジノはやらない」と明言した。
 開発の手法としては「今後、民間投資を国内外から呼び込む必要があり、新会社が誘致してほしい」と国交省内で述べ、民間のマーケティングとイノベーションに委ねる考えを示している。
 民営化に周辺開発を含めることでリスクは増加するものの、民間による経営の自由度は飛躍的に高まる。開発の条件や規模にもよるが、そこには官側が事業企画するPFIとは比べものにならないダイナミズムが潜んでいる。民間資金が求めるリターンはもちろん、本格復興という期待にも応えられる設計図をいかに描けるか、民間の知恵が試されようとしている。

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