静岡県掛川市で27日、南海トラフ巨大地震に備えた津波避難タワー2棟が完成を迎える。この津波避難タワー、全国で建設が進む他のタワーとは違う点がある。鉄骨造ではなく、工場生産したプレストレスト・コンクリート(PC)で造られているのだ。PC製の津波避難タワーは“国内初"。PC建設業協会も全国の自治体に提案を進めていた。3月中旬、建設現場を取材した。
完成した2棟のタワーはPCによる人工地盤型で、同市の菊浜、今沢の両地区に建設された。鉄骨製の階段を備え、避難スペースはともに海抜15m以上に設定している。両タワーのPC製品供給とPC工事全般は、ピーエス三菱が担当した。
菊浜地区の津波避難タワーは、避難スペースが16.7m×12m、地表面からの高さが10.5mで収容人数は最大600人。収容人数300人の今沢地区のタワーより大きい。設計はヴァイスプランニング、施工は大浜中村組で、ともに同市を拠点とする企業だ。
◇PC製は丈夫さ、コストが有利
現場代理人を務める大浜中村組の久米優司執行役員統括部長は、「非常に厳しい工期だ。杭と柱の精度確保、躯体と階段の取りあいなどに気を遣った」と話す。3月中旬時点では鉄骨階段の取り付けを終え、避難スペースのフェンス設置、防水工事、地盤のコンクリート打設といった工程が控えていた。「完成しても、避難するような事態が起きないよう願うばかり」(久米現場代理人)。
現在、全国で建設が進む津波避難タワーの多くは鉄骨造だが、そもそも掛川市はなぜPCを採用したのか。同市危機管理課の浦野正守主幹兼防災計画専門官はこう説明する。「検討会を設置し、鋼製やPC製、マウントなどさまざまな種類の施設を検討した。構造や強度、建設・維持管理コスト、専有面積、耐用年数、平常時の活用など、さまざまな角度から検討した結果、PCによる人工地盤型が最も有利であると判断した」
東日本大震災による巨大津波被害では、鉄橋に比べPC橋の丈夫さが際立つ結果となった。一方、現在は鋼材価格が上昇傾向にあるため、初期投資額の差も縮まりつつある。巨大地震が何年後に起こるか予測できない以上、ライフサイクルコストの視点も欠かせない。
◇平時には朝市会場に
PC建設業協会は、こうしたPCの優位性をアピールし、津波避難タワーや人工地盤の建設を各方面に提案してきた。今回の初採用については、「PC構造の強靭性、施工性、経済性、地元企業の活用などを総合的に判断いただいたと考えている。今後も各自治体が構造選定する際に、PC構造を比較のテーブルにあげていただくことを期待している」とし、今後の普及拡大に期待を寄せる。協会では現在、マニュアルを整備し、会員各社が対応できるよう準備を進めている。大空間の提供や複層階、増設対応、国道を跨ぐ形式など、高付加価値型の提案も検討中だ。
完成した津波避難タワーは、平常時は公民館の駐車場や朝市の会場としての利用などが見込まれている。「地域住民が安心感を持って生活できる環境が整うことは、地域の活性化にもつながる。平常時は地域資源として日常的に活用してほしい」(浦野主幹)。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年3月27日
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