2013/03/07

【建築】磯崎新氏が宮城に「新しい方舟」 空気膜構造の可動式ホール

外観(色は赤で計画中)
音楽を通して東日本大震災の被災地に希望を届けようというプロジェクト『ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 松島2013』が宮城県松島町で9月27日から10月14日までの予定で行われる。「アーク・ノヴァ」とは空気膜構造の可動式コンサーホール。建築家の磯崎新氏とインド生まれの彫刻家アニッシュ・カプーア氏が協働して手掛ける。

 スイスの国際音楽祭であるルツェルン・フェスティバルの呼び掛けで始まった、このプロジェクト。同フェスティバル芸術監督を務めるミヒャエル・ヘフリガー氏は、「震災後に梶本眞秀さん(梶本音楽事務所社長)と相談して、少し時間をかけ、じっくり考えて、ずっと続くような支援をしたいという結論になった。そこで、可動式のコンサートホールが旅をしていくようなプロジェクトはどうかと考え、磯崎さんに相談した。そして磯崎さんから、空気を入れて風船のように膨らむ可動式のコンサートホールはどうかというアイデアが出された」という。



◇オーケストラからジャズまで対応

 アーク・ノヴァの内部は連続した空間となっており、舞台や音響に必要な装置の配置を変えることによってオーケストラから室内楽、ジャズ、パフォーミングアーツ、展覧会までさまざまな催しに対応できるマルチステージの形式となる。オーケストラ公演時には500人の客席を想定、幅30m、長さ36m、最高高さ18m程度の大きさになる。厚さ1mmの膜は折りたたみ、各装置は分解してトラックに収納して各地を巡回できる。
 また、音響反射・吸音板や床、座席の素材として、津波被害と地盤沈下によって伐採された、同町内の国宝瑞巌寺の参道の杉を活用。製作は宮城中央森林組合と石巻工房が協働して行う。
 建設に当たっては、建築確認とともに、文化庁との協議・調整が必要となり、現在、その手続きを進めている段階。中西忍プロジェクトマネージャーは、「日本三景でのプロジェクトなので、文化庁とは建築の形態、色彩、オペレーション上の安全確認などの許可が必要になる。また、まずここで建築確認を取ることが、松島の次につながる」と話す。

◇風船をホールに

 アーク・ノヴァ実行委員長を務め、アーティステック・ディレクターの一人でもある梶本社長は風船のアイデアについて、「磯崎さんがアニッシュ・カプーア氏と親しくしていて、『カプーアさんが風船をつくるということをやっていて、パリで見ることができるよ』と言われ、実際に見にいった。そして、これをどうコンサートホールにしていくかという作業が始まった」と振り返る。
 アーク・ノヴァという名称も磯崎氏のアイデアで、ARK(アーク)は方舟(はこぶね)、NOVA(ノヴァ)は新しいを意味する。プロジェクトが被災地の再生のシンボルとなるよう願いを込めて「新しい方舟=アーク・ノヴァ」と名付けた。また、日本の神話の中に、異邦からの客人(まれびと)が信仰や祭事をもたらたし、社会を活性化させてきたという概念があり、その意味も込められている。
 駐日スイス特命全権大使のウルス・ブーヘル氏は「今日、東北地方は世界の報道から消えてしまった。しかし、被災地ではまだ苦しみを味わっている。東北地方の関心を呼び覚まし、希望をもたらすプロジェクトに」とし、ヘフリガー氏は「希望と再生のシンボルになることを願っている」と話している。
 プロジェクトの主催は、アーク・ノヴァ実行委員会と、地元松島町などでつくる松島実行委員会。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年3月7日

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