超高層建築物が、わが国で初めて建設された時には、超長周期地震動がまったく考えられていなかった。そもそも、当時のわが国には、超高層建築物の構造計算にあたって、予想される地震の波形資料がまったくなかった。霞が関ビルの場合は、米国の「タフト」と「エルセントロ」の波形を使用している。
もちろん、ごく最近に建設された超高層建築物は超長周期地震動に関して検討を加えているだろうが、これまでに建てられたわが国の多くの超高層建築物には、超長周期地震動に対する検討は行われていない。
東日本大震災では、大阪の超高層建築物でも超長周期地震動の影響が指摘された。だが、そもそもは中越地震の際、新宿の超高層ビル群に振動が発生したことから、多くの議論が起こったのである。
新しい事態に対して、新しい反応議論が生じることは、しばしばある。エスカレーターの片側を歩いて、あるいは走って通る人がいることなどは、エスカレーターを初めて作ったメーカーからすれば、予想できなかった事柄であろう。
もっとも超長周期地震動は、超高層建築物のように、建物自体が柔らかい場合でないと発生しない。建物の規模にもよるが、従来の剛構造は高さがあまりなく、広い床面積を持つ建物にはあまり揺れを与えないと思われる。そのような意味では、技術の進化に伴って、建物の高さが増大し、比較的細い形状の建物は、長周期地震動を受けやすいという事象を発生させたと言えよう。
このように見れば、新潟地震で液状化現象が、中層の建物に起こり得るということを示したように、中越地震あるいは今回の東日本大震災は、地震の規模にかかわらず、超長周期地震動が生じるということを示し、かつ今後も起こりうることを教示したものと言える。
残念ながら、現在の技術あるいは工学水準は、発生した事項に関する分析をできても、それを根拠として新しい事象の発生を予測することはできない。今知り得ることは、過去に生じた事柄が将来も起こり得るということまでである。
それにしても、関東大震災以来、わが国の地震学は多くのことを学んできた。そして現在でも現実に生じているさまざまな事態を解析することによって、被害の抑制や減災について多くの成果がある。
10月22日にイタリアで地震予知の安全宣言をした専門家が禁錮6年の有罪判決を受けた裁判は、そもそもが、人間の能力に関する過信があったことが一因のように思える。技術者の側にも、自分たちの現在の能力に関する過信があったのだ。裁判が今後、控訴されるかどうか予断を許さないが、まず最初に考えなければならないことは、自然現象をどう予知するかは、人類にとって、終わることのない試練なのではないだろうか。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!) 2012年11月27日版 14面
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