2014/02/16

【BIM】防衛省が施設管理にIPD(Integrated Project Delivery)提唱

防衛省の管理する施設は膨大だ
防衛施設学会の研究論文発表の場で、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使った防衛施設管理の有効性が紹介された。発表したのは学会員で防衛省経理装備局施設整備課防衛部員の加藤琢朗さん。学術的視点からの考察ではあるが、防衛施設が抱える課題解決の手段として、BIMの導入によって関係者が共通の価値観で行動するIPD(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)コンセプトの導入可能性にスポットが当てられた。

 プロジェクト情報を共有しながら、同じ目的を持って取り組むことができれば--加藤さんは防衛省内の関係者30人ほどにヒアリングし、その多くがそうした共通の認識を持っていることを知った。「これはIPDのコンセプトそのものであり、それを実現する手段としてBIMのようなツールが有効になる」との思いを巡らせた。

◇「成功」が共通ゴール

 IPDとは、発注者、施工者、設計者が事業の成功を共通目標に取り組む考え方。関係者全員が同じ価値観を共有しながらプロセスを進行することが前提になる。3次元モデルデータを軸に企画段階から設計、施工、維持管理に至る生産プロセスを統合管理するBIMの有効なコンセプトとして期待されている。
 「より良いものをつくる際、共通の価値観でつながり合えば、そこには『信頼』が生まれる。その意識変化がプロジェクトを成功に導く」と確信する加藤さんは、こう考えている。「触れ合ううちに、徐々に組織(プロジェクトチーム)の中に信頼が構築され、その経験の積み重ねにより、揺るぎない信頼感に変化していく。チーム内が一体になれば、意思決定もスムーズに進む」
現地部隊がユーザーとなり、内部部局はニーズを踏まえて立案する



◇年間の工事発注は1000件
 全国に2万5000棟もの施設を抱える防衛省は、工事発注件数が年間1000件を超える。インハウス設計の専門部署を置き、自ら工事監理も行う。プロジェクトの計画立案から工事発注、完成後の建物維持管理までを省内で完結している。他省庁と異なるのは、全国に点在する現地部隊が施設や関連設備のユーザーである点だ。
 現地部隊のニーズを踏まえ、内部部局が施設配置などの計画を立案し、それを受けて地方防衛局が工事発注をするが、具体的に建設プロジェクトが進み始めると、ニーズ元である現地部隊のかかわり方がやや薄れる傾向にある。現地部隊も含めた関係者全員の情報共有が活発になれば、建設段階の緻密な調整による効果として、建物運用時の満足度をさらに高めることができる。
 加藤さんがBIMを知ったのは5年ほど前。日本国内の民間工事に適用プロジェクトが出始めたころだ。「当時は聞いたことがある程度だったが、12年度の英国留学を機にBIMの持つ合意形成の部分に魅力を感じた」。国土交通省の官庁営繕部がBIM試行をスタートさせたことも「BIMの可能性を感じるインパクトになった」と振り返る。
工事発注件数が年間1000件を超える


◇「信頼」が意思決定のカギ

 そもそも防衛施設は機密性が高く、決められた期間内にプロジェクトを完成させる計画実行性も強く求められる。建設候補地への地元調整は困難を極めるだけに、定量的な判断がしにくい。組織内でも計画立案と地元調整それぞれの立場では置かれた状況が異なるため、その判断指標として、可視化や各種シミュレーションなどBIMによる「技術的なアドバイスが生かせる」期待もある。
 防衛施設学会でBIMを取り上げた学術論文発表は今回が初めて。加藤さんは「プロジェクト参加者が早期からコラボレーションすることで、質の高い意思決定ができる。地元調整のように定量的判断ができない事象については、関係者間の信頼が重要な要素になる。信頼関係の醸成が、チームの意思決定に影響を及ぼす」と結んだ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)


Related Posts:

  • 【東洋熱工業】3DレーザースキャナーとBIMで劇的に省力化! 設備のリニューアル受注拡大へ一手  東洋熱工業が、拡大するリニューアル需要の取り込みを加速させている。機械室などの更新・改修現場はさまざまな設備機器や配管、ダクトなどが錯綜する複雑な空間。3次元(3D)レーザースキャナーとBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を連携させた独自システムにより、苦慮していた図面作成作業の日数を4分の1に短縮したほか、手戻りのない高精度な施工も実現している。写真は3Dスキャナーによる計測  設備のリニューアル案件では、とっかかり… Read More
  • 【BIM】仏のタブレット現場管理ソフト「FINALCAD」の代理店に シスプロ  BIMソフトの開発・販売を手掛けるシスプロ(東京都新宿区)は、世界30カ国で導入されるフランス発の現場管理ソフト「FINALCAD(ファイナルキャド)」の正規代理店として販売・導入支援を開始した。iPad(アイパッド)などのタブレットに現場図面を登録し、その上に品質や安全管理、躯体、設備、内装などの作業進捗や問題情報などを入力する。元請けと協力会社が共通プラットフォームで情報共有し、現場管理に役立てる。  アプリをApp Store、… Read More
  • 【ベステラ・朝日航洋】建物の中も外も! スカイツリー周辺74万㎡を丸ごと点群データに  べステラと朝日航洋は共同で、東京スカイツリー周辺の約74万㎡のエリアを丸ごと3次元点群データ化した。3次元レーザースキャナー(LS)と道路地図作成に使われるMMS(モービルマッピングシステム)、航空レーザー計測を組み合わせて、建築物の内部と外部、街路、街並みまですべてを、3次元の点群データとして保存することに成功した。両社は今後、プラントの配管から施設全体までを網羅する「パーフェクト3D」システムとして提供を目指す。  ベステラは、建物… Read More
  • 【技術裏表】解体現場環境をリアルに再現 シーワークスの「解体業パッケージ」 建物の新築や改修工事だけでなく、解体工事にも3次元モデルが活用され始めた。シーワークス(東京都多摩市、藤田一世社長)が開発した解体工事専用3次元CAD「解体業パッケージ」は解体現場の3次元モデルを構築し、足場など仮設の設置や構造物の解体手順などを事前にシミュレーションして施工計画の検討に役立てる。藤田社長は「工事の生産性を高めるとともに、ビジュアル化や数量集計機能で営業力の向上にも効果を発揮する」と強調する。建設ITの導入が解体工事に大きな… Read More
  • 【大成建設】伝統建築にBIM活用 3次元プリントモデルが開く新たな可能性  「これを機に伝統建築でもBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用が増えてくるだろう」。大成建設の松尾浩樹伝統建築設計室長は、九品仏浄真寺(東京都世田谷区)の閻魔(えんま)堂建て替えプロジェクトで活用する3次元プリントモデルを指差し、そう語る。現在は2017年5月の着工に向け、建築確認を申請中。これまで施主との打ち合わせに使ってきたプリントモデルは、施工時の納まり確認にも利用する計画だ。画像は閻魔堂のBIIMモデル  閻… Read More

0 コメント :

コメントを投稿