2014/08/01

【今日は水の日】「水の天使」神田れいみさんが虫明水の週間実行委員会会長に聞く

8月1日から1週間は「水の週間」。毎年、水資源の重要性などについて国民への啓発事業が展開されている。38回目を迎えることしは、「水循環基本法」が制定され、8月1日を「水の日」とすることが同法に定められた。ことしは法制定後初の週間となる。テーマは「健全な水循環により、水の恵みを享受できる社会を目指して」。水の週間実行委員会会長の虫明功臣氏(日本河川協会会長)に同法、水問題の現状と課題などを聞いた。聞き手はミス日本「水の天使」の神田れいみさん。

 神田 まずはじめに水の週間、水の日が制定された経緯につきまして、お聞かせください。

虫明功臣氏(水の週間実行委員会会長)
虫明 水の週間は1977年5月31日の閣議了解で始まりました。今年で38回を数えます。日本は、戦後復興から高度経済成長の中で急激な人口増、都市集中、工業化、経済発展に伴い、深刻な水問題が発生していました。水問題というのは、水不足、地盤沈下、水域汚染、水害の激化などです。その解決に向けて、水資源の有限性、水の貴重さと水資源開発の重要性について、国民の関心と理解の向上を図る啓発行事を実施するために、77年の閣議で8月1日を水の日、それから1週間を水の週間と決めました。これは、当初から国と地方公共団体、あらゆる水の関係機関や団体が縦割りの弊害を乗り越えて連携した取り組みとなっています。世界水フォーラムという国際的なキャンペーンが97年に始まったことを考えますと、日本の水に関する啓発活動は先進的だったことがわかると思います。
 神田 日本の水問題への取り組みはとても早かったのですね。そしてことし、「水循環基本法」が制定されたと聞いています。
 虫明 法律はことし3月27日に成立しました。健全な水循環系の構築の必要性を法律で定めたことの意義は大変大きいと考えています。この中で、水循環というのは、「水が蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水、地下水として河川の流域を中心に循環すること」と定義しています。そして、水循環の重要性、水の公共性、健全な水循環への配慮、流域の総合的管理、水循環に関する国際的協調を基本理念にうたっています。今後はこの理念を基に実効ある施策を具体化することが重要になってくるでしょう。第10条には8月1日を「水の日」と制定しています。ことしの水の週間は、法律に基づく初めての行事が展開されることになります。
 神田 先ほどおっしゃっていました「水問題」の現状について少しお聞かせください。
 虫明 60年から80年代にかけての水不足、水質汚染、都市水害の激化といった深刻な水問題からは、現在脱却できたと考えています。水不足対策としての水資源開発は、歴史的にみると水資源開発促進法の制定、水資源開発公団(現水資源機構)の設立などによって、水資源開発のレベルは相当上がり、以前福岡で幾度かあったような深刻な給水制限はあまり見られなくなりました。これまでのような気候条件であれば、全国的に10年に1度程度の渇水に対しては水不足にはならない見通しです。
 水質(水環境)に関しては、下水道の整備や工業用排水の規制などによって河川の水質は大幅に改善されました。河川の90%ほどは環境基準を達成しています。ただ、湖沼などの閉鎖水域は環境基準の達成度が未だ60%と低い状態で、流域での対応が求められています。
 水害に関しては、日本は明治後半以来国を挙げて、さまざまな治水対策を打ってきました。終戦から昭和30年後半くらいまでは毎年のように、大河川が破堤・氾濫して死者が1000人を超えるような大水害が続きました。河川改修やダム建設などによって治水レベルが上がって、当時のような深刻な事態ではなくなっていますが、一方で都市水害が激しくなっています。近年では2000年の東海豪雨で、名古屋市内で地下に水が入るなど都市の大水害を経験し、新たな対策が講じられるようになりました。そして、11年の東日本大震災を経験して、異常な外力に対するハードとソフトの両面からの対策が考究されるようになっています。

神田 地球温暖化などで今後の水問題はどういうことになるでしょうか。
 虫明 肝心なことは「水問題は時代によって姿を変えて現れる」ということです。社会経済状況の変化、地球温暖化などの環境条件の変化によって、新たな問題が起きてくるということです。直面しつつある大きな問題の一つ、それは水インフラの老朽化、つまり、水資源関連施設や治水施設の老朽化です。例えば、高度経済成長期に急激に整備が進んだ上下水道施設は、耐用年数が近づいて下水道管の老朽化による道路の陥没事故なども発生しています。また、更新が必要な内水排除のためのポンプ場も増えていますが、更新のための予算を手当てできない自治体が多いと聞きます。水インフラの維持・更新に当たっては、選択と集中、あるいは新技術の導入によって効率化を図ることが肝要だと思います。新技術でいえば、例えば、下水道処理施設の更新に当たっては再生水の利用促進を視野に入れることが考えられます。
 もう一つは地球温暖化への対応です。第5次IPCC(気候変動に関する政府間パネル、13年9月-14年4月)の報告では、海面上昇が第4次より大きく見積もられるなど、温暖化が確実に進行していることを強調しています。また、第4次報告時に指摘された「日本では、洪水、渇水とも規模と頻度が増大する、つまり、荒々しい気象・気候になる」ことに変わりはありません。四方を海で囲まれ、海岸近くの低平地に人口と資産が集中する日本では、海面上昇は極めて深刻な影響をもたらします。高潮、津波の水位を上げるだけでなく、河川下流の洪水の水位を上げて氾濫の危険性が増しますし、水資源面では河口から塩水が侵入してくる区間が長くなり、取水が困難になる取水施設が出てきます。
 神田 本当に、気候が荒々しくなっているのは実感します。それによってさまざまな対策が必要になるのですね
 虫明 地球温暖化への対応は、国家百年の計として考えるべき課題だと思います。渇水対策についても100年に1回、1000年に1回の渇水も多様な角度から対策を考えておく必要があります。施設整備や安全な地域づくりはハード対策を含む重要な基本政策として着実に進める一方で、避難、救助活動、復旧体制の整備などのソフト対策も同時に考えていかなければならないと思います。
 *ミス日本「水の天使」は、水のインフラへの理解と関心を高めるイベント活動やPR活動に取り組んでいる。神田れいみさんは現在慶應義塾大学3年生。 

 
◆14年度水資源功績者表彰受賞者=敬称略
 〈個人〉
 ▽山田登美夫(神奈川県)=宮ヶ瀬ダムを活用した都市地域住民との交流事業に継続的に取り組み、地域活性化にも積極的に携わってきた。さらに、郷土資料館をあいかわ公園と一体整備するなど、宮ヶ瀬ダムと周辺施設が一体となった観光地づくりを進める上で貢献を果たした。
 ▽片渕弘晃(佐賀県)=地盤沈下の著しい白石平野の地下水依存から嘉瀬川ダムによる表流水への水源転換に多大な尽力をされてきた。また、嘉瀬川ダムの建設に協力し、上下流交流のほか、水源地域のハード・ソフト面の支援を推進した。
 〈団体〉
 ▽和賀川の清流を守る会(岩手県)
 ▽郡山市立湖南小・中学校(福島県)
 ▽阿武隈川サミット実行委員会(福島県)
 ▽川根本町エコツーリズムネットワーク(静岡県)
 ▽愛知用水土地改良区(愛知県)
 ▽特定非営利活動法人おとくにパオ(京都府)
 ▽清水の恵みを守る会(鳥取県)

◆主な行事
■水を考えるつどい
 8月1日午前10時-正午(東京都千代田区の砂防会館別館会議室・シェーンバッハサボー)=水循環基本法が成立し、8月1日は、同法に基づく初の「水の日」であることから、記念行事として「水を考えるつどい」を水循環政策本部などの主催で開催する。主催者あいさつ、全日本中学生水の作文コンクール表彰式、基調講演「地球をめぐる水と水をめぐる人々」(沖大幹東京大学生産技術研究所教授)ほか
■2014年度水資源功績者表彰
 8月4日(国土交通省特別会議室)
■水のワークショップ・展示会
 8月12日-14日の午前10時-午後5時(東京国際フォーラム。「丸の内キッズジャンボリー2014」の一部スペースにて開催)=小学生とその保護者を対象に水の重要性や貴重さ、水のめぐりや水の恵みなどへの理解や関心を深めてもらうワークショップや展示会を行う。テーマは「水のハッピーデー~水について学ぼう~」。参加は無料
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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