今回紹介するのは、西日本高速道路会社の新名神高速道路建設現場である。「三方良しの公共事業」の提唱者で有名な奥平聖西日本高速道路取締役常務執行役員の薦めもあり、2件の現場を訪ねた。共通する特徴は「安全」だ。両現場ともに日本建設業連合会の快適職場表彰を受賞しており、現場での工夫には目を見張るものがあった。
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目の前に広がる大スケールの土木構造物 |
■ 道場生野工事 訪問した現場は、名神高速道路との結節点である神戸ジャンクション(JCT)~高槻JCT間の全長40.5㎞のうち、西側の鉄建が担当する「道場生野工事(神戸市)」と、一番東側の大林組による「高槻JCT工事(大阪府高槻市)」である。この区間全体は、計画では2018年完成となっているが、西日本高速道路会社は前倒しして16年開通を目指して事業を鋭意推進している。
出発当日、鉄建の林康雄代表取締役執行役員副社長(当時、現社長)にお会いする機会があり、現場を訪ねる旨話したところ、「木塲(康幸)所長はナイスガイだ」と伺い、心躍らせて現場へ向かった。
現場事務所に着いた直後から、とにかく驚きの連続だった。鉄建本社から阿比留卓雄専務執行役員と谷口和喜土木本部副本部長兼土木営業部長がわざわざ現場にいらっしゃっており、同社の看板現場という意気込みを強く感じた。
そして現場事務所の美しさ! 建物自体はプレハブのはずが、外観のみならず、内部も床が木目調で一般的な事務所とは全く異なり、トイレ、食堂の清潔さ、どれもこれも素晴らしい職場環境だった。
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木場氏は地下足袋を愛用している |
次に事務所の看板。堂々とした字で、入り口にどっしりと立てられていた。自信と誇りが感じられ、看板を見るだけでも、ピリッとした緊張感が漂ってきた。まさに地名の道場を正しく地(字?)でいく風情で、所長の木塲氏にちなみ“木塲道場”といった雰囲気である。
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兵庫で気持ちを鼓舞する朝礼台 |
朝礼台には所長自ら考案した標語が掲げられていた。標語は30点あり、毎日の朝礼で日替わりに掲げ、現場で働く人たちの気持ちを鼓舞している。筆者が一番気に入ったのは『率先行動 男の修行』。山本五十六の言葉をアレンジしたとのこと。木塲所長は、博学であるとともにユーモアのセンスも持ち合わせている「ナイスガイ」だ。
これらの工夫のベースは「安全八策」にある。(1)作業所長の安全方針周知(2)快適職場(メンタルヘルス)(3)安全啓蒙活動(4)他山の石(5)交通安全(6)安全監理(7)健康管理(8)安全設備--の8つで、各項目に具体の実施内容を織り込んでいる。
この工事は、延長約2㎞のうち土工が7割を占めている。久しぶりの大規模土工の現場で、そのスケールに感動した以上に、最も驚いたのが木塲所長の足元だった。地下足袋(安全面に十分配慮されたもの)を履いており、聞けば若いころから常用しているとのこと。安全靴を見慣れてきた昨今、新鮮な感動と現場トップの心意気を強く感じた。
現場で働く協力会社の皆さんとの会話の時間はとても有意義だった。話を伺ったのは、壺山建設の渋谷大輔氏、勝木尚武氏、上武建設の木下謙三氏、錦城建設の増田直樹氏、林善建設の林勝幸氏の5人。「現場は楽しいですか。それともきついですか」とズバリ聞くと、全員が一斉に「楽しい」と笑顔で応じ、その理由は「(所長のつくり出す)現場の雰囲気」と胸を張った。
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錦城建設の増田氏 |
また、安全で心掛けていることを聞いたところ、過去にも木塲所長と現場をともにした仲の増田氏が「絶対無理をしない、させない」「自分はもとより他人にけがをさせない」と力強く語ってくれた。
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壺山建設の渋谷氏 |
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壺山建設の勝木氏 |
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上武建設の木下氏 |
木塲所長の明るい性格もあってか、終始笑顔が絶えず、「土木の仕事は、自分が携わった作品が長く残るやりがいのあるものであり、みんなで頑張ってつくり上げた達成感が魅力」(渋谷氏)など、全員が自信と誇りを持ちながら、前向きに仕事に取り組んでいた。
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林善建設の林氏 |
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鉄建の植田氏 |
鉄建と協力会社の皆さんとの強い絆を感じさせる、本当にこちらまで嬉しくなるような現場である。所長を支える赤塚学次長の存在も大きなものがあると思われた。協力会社のベテランの方々と鉄建の若手社員である植田知幸氏との関係も、よい緊張感の中に垣根のない仲間意識が感じられ、協力会社の方々に鍛えられ、育てられている姿が印象的だった。
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赤塚次長 |
最後に木塲所長から「The Legendになりたい」との言葉を伺い、この現場は今後歴史的にも言い伝えられるであろうとの感を抱き、そして爽やかな気持ちで現場を後にした。
■ 高槻JCT工事/「安全を見える化」 妥協なし!
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泉谷所長から説明を受ける筆者(右) |
翌日に訪ねた高槻JCT工事の現場では、大林組の泉谷治男所長、和田健次工事長、恒藤将功工事長の安全に対するひときわ強い思い入れを感じた。最大の特徴は『安全の見える化』。協力会社の皆さんとの直接の対話を通じて、各工種・作業内容に応じた、リアルタイムの見える化施策を整理し実施している。
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大林組の泉谷所長 |
見える化施策は、すべて理にかなったものであり、「現場の知恵の総結集」と言っても過言ではない。代表的な施策を紹介すると、(1)使用目的に応じたカラーコーンの色分けによる見える化(2)バックモニター搭載による後方視界の見える化(3)事前試験施工(モックアップ)による危険有害要因の見える化(4)仮設電気ケーブルの通電状況の見える化(5)ダンプトラック積載量目安の見える化--など。発注の際、発注者が評価すべき項目として、このような安全管理の具体的な提案を取り入れていくべきであると実感した。
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和田工事長 |
泉谷所長は「安全に対する知識、意識、関心の3つが重要」と強い口調で語ってくれた。安全に関して、頭ごなしに駄目と働いている人を叱るのではなく、まず働いている人が危ないことを危ないと感じるかが大事であり、なぜ危ないのかを一から、時には再現実験なども交えながら教えることが元請けの役割といえる。和田工事長は「安全に対して一切妥協しないという現場トップの姿勢が現場を変える。妥協すれば見抜かれる」と所長に負けず劣らず、安全への熱い思いを抱いていた。
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恒藤工事長 |
恒藤工事長の専門は機械電気関係だが、1級土木施工管理技士の資格も持ち、さらに安全管理の責任者として、労働安全衛生法の知識も豊富で、勉強熱心な技術者だ。過去に働いていた現場で労働災害が発生し、その時に辛い思いを経験。「二度と繰り返してはならない」との思いにかられ、それで安全を担当すべきと自ら考え、今に至っている。
彼は毎日、始業1時間前と昼休みに安全の勉強と現場での工夫に励んでいる。素晴らしい人材であり、大林組の金井誠代表取締役副社長執行役員の熱い想いと同じものを現場職員の方々に感じた。
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中井土木の中島氏 |
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吉川組の村中氏 |
協力会社である中井土木の中島年家氏、吉川組の村中克啓氏、楠工務店の溝手雅人氏の話も伺った。3人の中で最も若い28歳の溝手氏は、父親が働く会社に入社した。「大学(土木系学科)時代のアルバイトが切っ掛け」とのこと。父親は53歳で、CADも使いこなす、周囲の評価も高い1級の技術者だと和田工事長が語ってくれた。父親が苦労して頑張っている姿を家族、特に子どもに見せるのは大事なことだと改めて痛感した。
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楠工務店の溝手氏 |
この現場で誇れることは「くり返しくり返しさまざまな工夫を取り入れ、働く人たちに安全管理や施工手順の周知を徹底して、体で覚えるところまでやっている点である」と協力会社の皆さんが異口同音に言われた。
さらに、「この現場の取り組みは有難い。意識もしっかり植え付けられた。ただ、他の現場で、元請けの会社が変わったら同じようにできるか不安」と正直な意見もあった。働く人の命と体を守ることは、何よりも優先されるべきであり、現場における元請けの責任の重さを再認識させられた。
この現場の安全の見える化の取り組みは、特筆すべきものであり、泉谷所長を始め、現場の方々の努力は間違いなく歴史に残るものとなるであろうと強く感じた。
◆ひとこと・クライシス管理へ 今回の現場は、わが国建設業の安全管理のトップランナーであると強く実感した。このような両現場を表彰された日建連の安全への取り組みに敬意を表すとともに、両現場の工夫が早く一般的になることを強く期待している。
労働安全衛生法は最低限のルールであり、建設の世界では、「仮に事故が発生しても最低限命だけは守る」というフェールセーフシステムを取り入れた形で、現場の安全管理の質を高める努力が求められる。言い換えれば、リスク管理のみならず、クライシス管理にも視野を広げないと安全は徹底されないということだ。各種センサー技術や3次元仮想現場システムを採用し、より高度で実効性のあるクライシス管理を含めた次世代型現場管理の実現に向けて、筆者らは課題などを現在整理している。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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