2013/02/14

【建築】子どもたちの笑顔がうれしい 日本建築大賞の陶器浩一氏に聞く

東日本大震災発災後の2011年10月に、被災地の宮城県気仙沼市本吉町に建設された「竹の会所」が日本建築家協会(JIA)の12年度日本建築大賞を受賞した。審査員を務めた三宅理一氏は「このような建築がJIAで出てきたことはなかった。新しい境地を開くものだ」と評価。陶器浩一滋賀県立大学教授は受賞の感想を、「雨風をしのげない建築が大賞をもらっていいのか恐縮している。実感がわかない」と語る。

◇みんなでの受賞

 仮設建築での応募について、「建築とは、人々の心を1つにできるものであり、人々が寄り添い、明日を生きていくためのエネルギーを与えるもの。それを知ってほしかった」と説明する。さらに、「被災地はほとんど何も変わっていない。国も行政も、被災者の目線、まなざしとは違うと感じている。被災者の本当の思いに目を向けてほしかった」ことも大きな応募理由の一つだ。
 また、「高橋工業の高橋和志社長、永井拓生滋賀県立大助教との3人連名で応募したかった」が、応募規定・条件から、陶器氏の単独応募、受賞となった。「高橋さんは自ら被災して大変な生活の中、われわれ大人数を受け入れ、学生たちの心の支えになってくれた。高橋さん、永井さん、学生たち、地域の方々との受賞」とする。

◇RCよりはるかに難しい竹造

 建物は、竹造平屋建て175㎡の集会所。供用期間4年の建築として建築確認を取得。使った竹はフレームに350本、床に650本。フレーム構築も含めすべてロープで縛り上げた。基礎の代わりに使った土嚢は16tになる。仮設とはいえ竹を使った初めての構造であり、しかも、竹は種類によって特性が異なる。「安全を証明しなければならず、試行錯誤、苦労の連続だった」と振り返る。描いた図面は125枚にもなる。「構造計算は幾何学的非線形解析もした。技術的にはRCよりはるかに難しい」と言う。参加した学生は、9月から10月にかけて合計28日間、70人を班分けし、常時20-30人が現場に入った。
 竹を使ったことについて、「お金も資材も材料も道具もなく、学生が手作りで何ができるかというところからスタートした。また、こういう形にというイメージはなく、手作りで何ができるかを考えた。渦巻きのような形は結果としてのもの」と言う。高橋社長は、「ただ闇雲に調達したのではなく、荒れていた竹林から間引いたり、倒れて道をふさいでいる竹を調達した。竹林の再生、周辺の環境改善につながりお年寄りも喜んでいる。このことも被災地支援の一つになる」と語る。

◇未来に続く場所

 実際に使われている状況を、「朝から訪れて夕方までいる子どもたちの笑顔がうれしい。また、土地を提供してくれた方は父親を亡くし、自宅も流された。それでも『何もしないと始まらない。できることからやろう』と提供していただき、完成後は『人々が集まってくれる姿に勇気づけられた』と言っていただいた」そうだ。
 高橋社長は、「施主は多岐にわたっており、特定できない。その人たちがそれぞれにできる範囲内でできることをやった。被災地にこういうものを創るという難しさがあったが、皆の協力があったからこそできた。被災地の建築のあり方に一石を投じた。新しい建築の一歩」とする。
 プロジェクトに参加した学生が中心になって全国から会員を募り、ワークショップを通じて会所の整備・メンテナンスなどを行う「竹の会所 友の会」(たけともの会)も発足。「何かしようと行動を起こせば、着実に何かができあがるのだと身をもって感じた」「いずれ竹の会所はなくなってしまうが、なくなった後も子どもたちの心に残るような、未来に続く場所を地域の方々とともにつくっていければと思う」などの感想が寄せられていることを「うれしい」と語る。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年2月14日 1面

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