2013/02/23

【建築】「Daylight House」でJIA新人賞受賞の保坂猛氏に聞く

Daylight House (写真:ナカサ&パートナーズ)
天井から自然光が降り注ぐ住宅「Daylight House」で第24回JIA新人賞を受賞した保坂猛氏(保坂猛建築都市設計事務所)は、「建築を始めた学生のころから知っていた賞。自分が受賞できるとは夢にも思っていなかった」と喜びを表現する。


◇自然とは無縁の地に環境創造

周囲は住宅やオフィスビル、マンションなどに囲まれ、自然とは無縁と思われた敷地に、環境を感じられる建築を実現させた。「冬は建物の陰になり、正午になっても敷地にほとんど太陽の光が当たらない場所。中央に中庭を設けても、周りから見下ろされることになる」。施主からは「できれば暖かく、明るい住宅にしてほしい」という半ばあきらめに近い願望しか出ないほど、厳しいロケーションだったと振り返る。
 「設計をする際、常に心掛けていることは、どれだけ厳しい場所であっても、実は自然の要素が存在するということ。一見すると厳しいが、すばらしい場所となり得ることを信じて設計している」。そのことを最初に強く感じたのが、自宅である「LOVE HOUSE」を設計した時だ。
 幅3×10mの狭い敷地の3方向に建物が建ち、今回の受賞作と似たような状況だった。「旧約聖書の創世記では、神が6日間で世界をつくったとされている。1日目に光、2日目に水、その後も植物、鳥、人と自然豊かな姿を現していったが、この住宅を考えると海以外のすべてのものがそろっていた」。LOVE HOUSEは上面に曲線で開口を設け、雨や風が入ってくるところもあるが、外のような内部をつくり上げた。

◇昼も夜も光を感じられる空間

敷地は建物に囲まれている (写真:ナカサ&パートナーズ)
受賞作は、高さ5mの屋根面に29個のトップライトを設けた。地面にはほとんど太陽光が当たらなくても、5m上の屋根面にはずいぶんと光が当たる。「トップライトが1カ所だけであれば光が当たる時間は限られるが、屋根全体にトップライトを設ければ長い時間、場所が移り変わりながら当たる」。太陽の動きは1年を通して変化するため、室内から見た天井面の表情も季節によって変化する。
 トップライトの下に設けたボールト状(かまぼこ型)のアクリル板を通して太陽光は拡散し、室内に降り注ぐ。
 29個のトップライトのうち、外から生活の様子が見えない場所を選んで、2個だけアクリル板をつけず、直接トップライトから空を見通せるようにした。「住宅の正面を向くと擁壁や他の建物だが、上方向からは光がそそがれ、鳥や飛行機も見える。“Daylight"は何も太陽光だけではない。月明かりや街明かり、夜のほのかな光も天井面から入ってくる。1日を通しての光を感じられる空間とした」
 夏は直射日光が入ってくるため、暑さ対策を講じている。トップライトとアクリル板の間の空気層で断熱効果を高めたほか、一定の温度を超えるとトップライト横に設置した換気装置が作動し、熱い空気を外に逃がすことで室内の暑さを緩和させる。「涼しくはないが、室内が30度以上になることはそれほどない。高い天井も貢献している」

◇施主が100%納得

 施主の要望に応えるだけでなく、常に建築のすばらしさを感じられる建物を追求している。「最初のプレゼンテーションまでの2カ月間、1日1案を考えている。施主の要望を満たすだけでは多くの場合、良いものはできない。敷地や周辺環境など、さまざまな条件がある中で、すばらしい建築的答えを探さなければ良いものはできない。1日ひとつずつ考えていれば、ある段階で何をつくればいいのかが分かってくる」
 この方法で出した提案であれば、施主は100%納得してくれるという。
 国内でコンペ・プロポーザルにも積極的に挑戦しながら、海外では、高潮避難ビルになる学校の設計をフィリピンで進めている。
 また、世界的化学製品メーカーであるシーカの後援を得て4月3日から、チェコで展覧会を開く。建築と現実の間にただよい、建築をおもしろくする「空想」を展覧会タイトルとした。「チェコのクリエーターから声がかかった。展覧会にあわせてチェコの大学でのワークショップも予定している」。海外からの評価も高まっている。
 (ほさか・たけし)2001年横浜国立大大学院修了後、04年保坂猛建築都市設計事務所設立。1999年に設立した「建築設計SPEED STUDIO」は、前回のJIA新人賞受賞者で横浜国立大の同期だった西田司氏との共同主宰。1975年生まれ。山梨県出身。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年2月21日 12面

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