2014/10/12

【現場最前線】県産材が大空間の構造を担う! 内藤廣設計の静岡県草薙総合運動場体育館

「建築屋としてのターニングポイントになった」。鹿島・木内建設・鈴与建設JVの箕浦達也所長は、今回の体育館の構造を手掛けてそう感じたという。RC造の下部躯体に免震装置を乗せ、その上に設置した256本の集成材垂木が鉄骨造のトラス屋根を支える。長さ15mの静岡県産集成材が、すぐれた意匠性とともに見事に構造体として機能している。それが草薙総合運動場体育館だ。設計は内藤廣建築設計事務所が担当した。
 体育館のフロアや2700席ある観覧席は、RC造で楕円形に構築される。観覧席の周囲を取り囲むように設置された32本の杉板本実型枠による打放しコンクリートの柱に、64基の積層ゴム免震装置を取り付け、屋根を乗せるための現場打ちRC水平リングが載せられている。

上屋根は、リングよりひとまわり小さい楕円形のスチールリングと鉄骨トラスでつくられる。何より特徴的なのは、免震装置上の水平リングと上屋根を囲むスチールリングとの間を、360×600mm、長さ15mの巨大な集成材垂木が複雑に角度を変えながら重量を支える構造だ。
 集成材は、楕円の短辺サイドが45度、長辺サイドは70度の角度で屋根を支える。屋根の重量はあくまで集成材が受け持ち、水平方向の力を集成材外側に貼られたスチールブレースが担当する。

箕浦達也所長
「構造はRC・Sプラス木造の混構造のハイブリッドだ」(箕浦所長)と表現する。
 建設中の体育館内部に入ると、ずらりと柱列状に並んだ集成材柱の存在感に圧倒される。巨大な水平リングの上に、ずっしりとした質感の木造柱が、2300tもの上部躯体総重量を支えている。
 屋根の架構では、土木工事並みの重機が活躍した。まず鉄骨トラスの上屋根を支えるベントを500tクレーンで建て込み、その上にトラス構造を構築する。温度変化による誤差を防ぐため、地組みと架構の時間を同じにするなど、「ミリ単位の誤差との闘いだった」(箕浦所長)。

5月に集合材の建て込みが完了
上屋根ができると、それを支える集成材垂木の建て込みが始まる。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を駆使して1日8本ずつ、長さ15mの垂木を設置していく。ことし5月に建て込みが完了したとき、集成材とスチールブレースの見事な構造美が姿を現した。残念ながら完成後は、亜鉛合金の外装に覆われるためにその構造美は見えない。
 古くから有名な静岡県産天竜杉。ここで使われた集成材にはこの天竜杉が使われている。「年輪が詰まった(山の)西、北側で育った60年ものの杉を厳選した」(箕浦所長)。
 集成材を構成する「ラミナ(ひき板)」は、厳密にヤング係数を測定し、1つの集成材は、同一等級で構成されている。使う個所によって3種の強度を使い分けている。
 木材を構造として使うために、丸太の集積場で1本ずつ打撃試験をし、「木取り」を工夫しながらなるべく無駄のないようにラミナを引いていく。自然乾燥を経てから、1本ずつ強度を測定し、大きな集成材に加工した。その数量は、860m3。内装材を含めると約1000m3もの量を加工したことになる。
 木材は県外で加工しなければならず、「県産材」を貫き通すために、原木からラミナ加工、商社、集成材加工工場、現場への搬入に至るまでの販売管理票フローを構築した。この責任管理体制は、いわば「草薙モデル」と言える。

亜鉛合金の外装に覆われた外観
草薙総合運動場は、2027年までに全体をリニューアルする計画だ。日本武尊(ヤマトタケルノミコト)伝説から名付けられた草薙の地に建つ新体育館は、来年4月にオープンする。静岡県の中心で、数々の名勝負の舞台として多くの人々に感動を与える場となるだろう。

 ▽工事概要=RC・Sプラス木造の混構造、地下1階地上2階建て延べ1万3509㎡。最高高さ28m。敷地面積2万5542㎡、建築面積は9701㎡▽発注者=静岡県▽設計=内藤廣建築設計事務所▽施工=鹿島・木内建設・鈴与建設JV。
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