2013/12/08

【復興版】震災遺構は貴重な共有財産 木村拓郎防災・復興支援機構理事長

既に撤去された第18共徳丸
震災遺構を巡る議論が活発化する中、復興庁は「各市町村1カ所」「初期費用の負担」「維持管理費は対象外」などとする被災自治体への支援方針を示した。一方、複数の遺構保存を検討している自治体もあり、同庁の対応には今後異論も出そうだ。こうした中、仙台市の第3回震災メモリアル等検討委員会で講演した木村拓郎防災・復興支援機構理事長は、「震災遺構は全国民が共有して後世に残すべき貴重な財産」と遺構を保存する意義を強調。これまで多くの災害で発生した遺構の保存状況を踏まえつつ、民間による取り組み事例などを紹介した。


◇今後の減災に役立つ

 木村氏が座長を務める3・11震災伝承研究会は、一つでも多くの震災遺構を保存しようと地元学識者を中心に設立。12年9月に宮城県内15市町の保存候補対象物46件のリストを発表した。
 リストには、火災で焼失した石巻市の『門脇小学校』や津波で転倒した女川町のRC建物3棟などの象徴的な遺構が盛り込まれた。さらに「土葬による仮埋葬という手法は災害対応でも極めて異例であり、それだけ大きな災害だったことを伝える必要がある」と各地の『仮埋葬跡地』の保存も求めている。
 一方、リストに挙げられた候補のうち、気仙沼市で陸上に打ち上げられた大型漁船の『第18共徳丸』は既に撤去され、南三陸町の『防災庁舎』も佐藤仁町長が解体を決めた。
 自らも石巻市の生家が津波で流されたという木村氏は、辛い思い出を抱える被災者や遺族の感情に理解を示しつつ、「震災で受けた内外からの支援に恩返しする方法の一つとして震災遺構の保存を考えてほしい。被災地を訪れる修学旅行生も増えており、津波の恐怖や避難の重要性を認識してもらうことが、今後の防災・減災に役立つ」と訴える。
南三陸町防災庁舎


◇阪神大震災では残らなかった

 木村氏は、遺構がほとんど残らなかった事例として、阪神・淡路大震災の神戸市や北海道南西沖地震の奥尻島を挙げる一方、雲仙普賢岳などの火山災害は遺構が多く残されていると指摘した上で、遺構の有無は「災害のタイプや被害状況、首長判断などによる」とその理由を挙げた。
 4施設3公園を巡ることで新潟県中越地震の記憶と復興への軌跡をたどることができる『中越メモリアル回廊』は、ことし10月に『やまこし復興交流館』が開館してようやく完成した。「山古志は震災から9年、生活再建から6年が過ぎている。広島の原爆ドームの保存決定には20年という時間が必要だった」と、中・長期にわたる取り組みの必要性を強調する。
 さらに旧山古志村にある天然ダムで水没した集落跡の『木籠集落水没家屋』は、「震災から3カ月後には集落全員の合意で保存が決まった。遺構の横には住民発案でつくられた『郷見庵』があり、資料館と地場産品の即売でにぎわっている」と被災者自身による保存事例を紹介。
約300人が救われた高野会館


◇未来への警鐘

 海外でも津波災害の記憶が新しいバンダアチェ市(インドネシア)では、住宅や工場の上に打ち上げられた船が保存されているという。「市民が行政に保存を持ちかけたケースもあり、地域全体で津波の記憶の伝承に取り組んでいる」と、民間主体による遺構保存の動きを評価する。
 その上で、「写真や映像だけでは、この悲しみは伝わらない。子どもたちが日常的に震災遺構を見ることで、その脅威や対応策を学び、次の世代につなげる“伝承サイクル"が生まれる。世代を超えて津波の恐怖を伝えるためにはこのようなサイクルが必要だ」と未来への警鐘として震災遺構の持つ役割を力説する。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)


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