2013/12/19

【東京五輪】成功には〝ポジティブ・レガシー〟が必要 豪州大使館が先行事例提示

国際コンペで2位になった豪州Coxアーキテクチャー案
オーストラリア大使館が、2020年開催予定の東京五輪を見据えて、日本の自治体や建設業界などを対象に、豪州が持つ施設計画や開発、運営ノウハウや実績を紹介するセミナーを開いた。00年から毎年夏季五輪のコンサルタントを手掛けている「Miアソシエーツ」と、新国立競技場国際コンペで2位になった設計事務所コックス・アーキテクチャー(Cox Architecture)が、シドニー、北京、ロンドンなどの五輪を例に、五輪施設整備の課題や解決法をレクチャーした。
 大使館のブルース・ミラー駐日大使は「これまで豪州は、数々の五輪を成功させてきた実績がある。ロンドンでも豪州の46社が受注に成功している。今後、人材交流も含めて日豪の関係強化がなされることを願っている」と話す。


◇コストは整備3割、維持管理7割

 Miアソシエーツのクリス・スタンレーマネジメントディレクターは、「五輪施設について最も重要なことは、整備する施設が“ポジティブ・レガシー"になることだ」と強調した。
五輪施設はレガシー
 コックスのスポーツ施設担当ディレクターのアラステア・リチャードソン氏も同様に「施設整備のはじめの投資コストは30%に過ぎない。その後50年間のライフサイクルコストは、実に70%に及ぶ。サスティナビリティーという考え方と、五輪後の施設運営を考慮に入れた企画・計画・設計をしなければ、成功しない」と話す。
 コンサルと設計の経験を持つ両社は、ともに施設を「レガシー」というとらえ方で考えている。アテネ、北京の両五輪で建設されたメーンスタジアムは、現在はほとんど使われておらず、負の遺産となってしまっている。一方で、北京のアクアティクス・センターは、施設の周囲に市民の水遊び施設などを取り入れ、現在も生きた施設として使われている。
説明するアラステア・リチャードソン氏


◇メーンスタジアム周りに「ライブ・サイト」を
 コックスのリチャードソン氏は、「本設の座席と仮設座席を組み合わせ、五輪終了後に最小限の改築で対応できる計画が必要だ。さらにデザインで仮設席を本設に見えるようにすべき」という。また、「メーンスタジアムは、その国でポピュラーなスポーツの本拠施設にするなど、競技終了後も平均した集客が期待できる状況を計画すべき」と主張する。
 さらに東京五輪に必要なのは、「ライブ・サイト」だという。これは、開閉会式などで、入場券を買えなかった人たちが、競技場周辺でリラックスして一緒に祝い、楽しめるような場所のことだ。飲食物販なども備えた広場があれば、五輪が本当に盛り上がるという。
明確な目的が必須
 Miのスタンレー氏は、「開催中は、1000を超えるプレス席や中継用サイト、手荷物検査場など五輪独特の施設が必要になるが、閉会後はいらない。駐車場などをうまく活用して総合的な計画を立てなければならない。また、期間中も期間後も、スポーツというビジネスを考え続ける施設オーナーが必須だ」
 両社とも、「五輪施設整備には、開催前から明確な目的が必要で、皆の利益になるものでなくてはならない」という視点が一致している。
 現在、新国立競技場の施設整備を始め、民間主体で行われる選手村など、国内での議論は数多いが、これまでの海外事例をうまく取り入れて、東京五輪を成功させるべきだろう。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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