2013/01/27

【現場最前線】万一の津波でも安心! 竹中のしらはたこども園整備

この上部は津波時の避難場所となる
千葉県の九十九里海岸から内陸に5㎞ほどの敷地で、ユニークなデザインの認定こども園の建設工事が進んでいる。子ども心をくすぐり、親しみを持ちやすい外観が特徴だが、実は大地震発生時の津波対策も考慮した緻密(ちみつ)なデザインでもある。このプロジェクトで設計施工を担うのは竹中工務店。4月の開園に向けて今、工事は佳境を迎えている。
完成予想図


◇DBで機能美を具現化

 (仮称)しらはたこども園整備事業は、千葉県山武市が設計施工一括のデザインビルド(DB)方式で発注した。延べ約2600㎡の施設に与えられた設計施工の期間は約1年間。非常にタイトなスケジュールだが、同社は川上段階から市との打ち合わせを重ね、設計、施工の両部門が連携しながら入念に計画を練り上げた。設計施工は同社の“お家芸"であり、腕の見せ所だ。
 施設は、真上から見るとアルファベットの「P」のような形をしている。施設内ではPのラインがそのまま動線となり、その外郭部に居室を配置する。Pの内郭部の広い円形空間は遊戯室となる。外郭部の居室の屋根は外側に向けて緩やかに傾斜しているが、これは中央の遊戯室側から自然の光や風を取り込むと同時に、南側の日光を遮る庇としても機能する。
 自然の光や風を積極的に取り入れるデザインに加え、床吹き出し空調など高効率設備機器や長寿命材料の採用によって、従来に比べ30%の省エネ化を実現する。地元木材「サンブスギ」を使った地産地消を進めるほか、麦わらをリサイクルした内装材、再生材料を使ったデッキ材やゴムチップ材なども採用している。
施工中の居室部分

◇屋上は避難ひろば

 建設地は海岸から比較的近いこともあり、大地震発生時に津波の影響を受ける可能性もある。同社は独自にシミュレーションを行い、津波対策を施設計画に反映させた。万一に備え、1階部分は津波の波力を分散させて受け流すよう設計している。
 一方、避難スペースとなる屋上部はベースとなる高さが3.5mで、さらに遊戯室の上部は「みはらし広場」として高さ5.6mを確保した。2段階の避難スペースとし、それぞれの広さも500㎡、290㎡と余裕を持たせた。防災備蓄倉庫も設置している。

◇創意工夫で人手不足乗り切る

 最近の建築工事は労務事情が厳しい。もちろんこの現場も例外ではないが、さまざまな創意工夫で向き合っている。「小梁は現場サイトでプレキャスト化したほか、鉄筋付きデッキなども採用した」(川邉辰彦作業所長)ことで、型枠工や鉄筋工の不足に対応する。
 デザイン性が高い施設のため、施工の難易度は高い。「特に躯体での苦労が多い。型枠工が1日に4、5回、施工図担当者の所に相談に来ることもある」ほどだ。短い工期を踏まえ、「型枠の精度を高めると同時に、仕上げを先行できる」よう、コンクリート打設の工程なども工夫している。難関の一つだった鉄骨梁の施工には支保工を駆使して臨んだ。
 川邉所長は、「さまざまな方面からの期待が非常に大きいと感じている。工期が短く厳しい条件だが、品質の高い作品を無事故・無災害で引き渡せるよう努力する。設計サイドの意気込みに応えるべく、作業所もがんばっていく」と力を込める。
 機能とデザインとを融合させる設計能力、それを具現化する施工能力。その2つが一枚岩となり、時に切磋琢磨することでこのプロジェクトは前進を続けている。
工事概要
▽発注=千葉県山武市▽設計施工=竹中工務店▽規模=RC一部S造2階建て延べ2611㎡▽工期=2012年7月-13年3月▽建設地=山武市白幡1919番地外
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年1月23日12面

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