2013/01/04

【現場最前線】上向きシールド発進! 国道25号御堂筋共同溝立坑工事

上向き発進を待つシールド機
都市トンネル工事では一般的なシールドトンネル。これを地下のトンネルから地表に向けて上向きに掘り進める「上向きシールド」の掘進が大阪のシンボルロード・御堂筋で始まった。2011年3月に着手した「国道25号御堂筋共同溝立坑工事」は、御堂筋共同溝(11年度完成)に計8本の立坑を構築し、水道管や電気ケーブルの分岐拠点をつくる。立坑8本のうち、7本は上向きシールド工法を採用。工事は、近畿地方整備局が発注し、大成建設・五洋建設JVが設計施工を担当している。坂本英俊所長(大成建設)は「安全と高品質は当然だが、地元が愛する御堂筋。なるべく現場の工事っぽさを抑えて施工したい」と1年半後の完成を見据えている。

◇最後の難区間

 1973年から整備されてきた大阪中心部の共同溝。既に38.9㎞が完成し、残すは、御堂筋(梅田~なんば)の区間約4㎞のみとなる。「交通量や周辺環境・施工の難易度が高いなどの理由で最後まで未着手になっていた」。御堂筋共同溝の建設が始まったのが、08年8月。難波元町立坑(大阪市浪速区)から発進し、梅新立坑(大阪市北区)まで約4年かけて構築した。内径約4.8mの共同溝には、大阪市の水道管(径1.5m)と関西電力のケーブルを収容する。

立坑から搬入されるシールド
◇上向きシールド

 大成建設が開発した上向きシールドは、大阪市都市環境局(現建設局)の下水道工事で初めて採用された。01年3月から掘削が始まり、計3本の立坑を構築した。その後、名古屋の下水道工事でも採用され、今回が3例目になる。このほか、北陸では上向き推進工法の採用事例がある。
 実は初採用の時、坂本所長は監理技術者として工事に携わった。それだけにこの技術に対する思い入れは強い。今回の工事では、1台のシールド機で7本の立坑を掘削する。まず、内径3mの立坑2本を掘った後、マシンを内径2.75m用に改造し、残りの5本を構築する。「上向きシールドとして異なる内径を1台で掘るのは初めての経験になる」
 共同溝から地上に向け発進したシールド機は、地上から構築した分岐立坑を目指す。「同じ御堂筋を走る地下鉄御堂筋線に影響を与えないように、計測しながら慎重に作業を進める」。分岐立坑に迎え入れられたシールド機は、地表に引き上げた後、難波元町発進立坑から再び共同溝内に運び込まれ、新たな立坑の掘削で活躍する。

◇占有期間は4分の1

 上向きシールド工法のメリットは地表からの作業が大幅に減り、周辺環境に与える影響を軽減できることだ。「在来工法だと地上の占用期間が約1年必要だが、上向きシールドならば3カ月ほどで済む。地上での作業は夜間しかできないため、工期の短縮にもつながる」。さらに、上向きシールドの適用に加えて、地上からつくる分岐立坑は工場製のボックスカルバートを活用することで、地上での作業を減らす。
 上向きシールドが掘削する立坑の深さは、1本当たり約30m。「今回の工事では工期短縮も重要なテーマ。従来は1本当たり1カ月ほどかかったが、本数が多く、経験を蓄積できるため、最終的には約2週間に向けて挑戦していきたい」と坂本所長が話す理由は「上向きシールドはもっと汎用的な技術になり得る」という思いがあるからこそだ。「今回の経験を今後の発展につなげたい」。立坑以外の用途も視野に上向きシールド技術の普及に取り組む。

立坑構築のイメージ
◇1本目が発進

 現在の工事進捗率は35%。歴史のある御堂筋だけに、想定していなかった大正時代のケーブルが見つかるハプニングなどにも事欠かない。分岐立坑は道路の本線と側道との間に設けられた植栽の下に建設するが、樹齢60年という銀杏が5mほどの間隔で植えられており、それらの移植を極力減らす工夫なども行われている。
 12月に入り1本目の上向きシールドが発進し、工事はいよいよ本番に入った。安全面で特に気を付けているのは、人通りの多い地上での作業。「上向きシールドによって地上での作業が減ったメリットは大きいが、それでもなくなったわけではない。第三者災害など安全には細心の注意を払って工事を進めていきたい」と力を込めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2012年12月26日16面



Related Posts:

  • 【現場最前線】安全・効率を堅持! 巨大仮橋から上下部工一体施工 新名神 坊川第三橋工事 大成建設が上下部工一体の施工を担当する「新名神高速道路 坊川第三橋工事」では地上に作業ヤードが確保できないため、施工区域全域に構築した長さ約800m、広さ約9800㎡の巨大仮橋上からさまざまな作業が進められている。最高高さ約40mでの高所作業、狭い作業スペースに、他工区の排出土運搬ルートにも併用されている仮橋上を1日約200台のダンプが往復するという特殊条件が加わる。厳しい条件下で基礎、下部、上部工事が同時進行し、最盛期を迎える現場で陣頭指… Read More
  • 【現場最前線】貴重な土木遺産を守れ! 東鉄工業のJR内房線 山生橋梁塩害対策 東鉄工業は、JR内房線江見・太海間に位置する山生(やもめ)橋梁で、電気防食工法による塩害対策工事を進めている。橋梁は、長さ171mの単線鉄道橋として日本初の鉄筋コンクリートT型梁形式を採用し、1924年に竣工。従来のアーチ型から桁式構造へと転換する記念碑的構造物として、2012年度に土木学会の土木遺産に認定されている。写真は山生橋と監理技術者の長瀬氏(東鉄工業)。  山と海に挟まれた狭あいな足場での作業、列車を通過させながらの昼間作業、深… Read More
  • 【次代を担う】新鉄鋼ビル建替計画(仮称)佳境を迎えた現場 首都大学東京・寺村大真 戦後の高層オフィスビルの草分けとして知られる第1鉄鋼ビルとそれに隣接していた第2鉄鋼ビルを建て替えるプロジェクトが佳境を迎えている。建設地はJR東京駅八重洲北口に隣接し、外堀通りと永代通りに接する。その(仮称)新鉄鋼ビル建替計画現場を首都大学東京都市環境学部建築都市コースの権藤研究室、芝浦工業大学工学部建築工学科の蟹澤研究室と志手研究室の学生計9人が訪ねた。リポーターは権藤研の寺村大真さん(4年生)。 ◆朝7時30分八重洲集合 引率の権藤先… Read More
  • 【現場最前線】視覚化・VE提案で工程短縮にまい進 大型木造耐火ホール南陽市新文化会館 主要構造に大臣認定を受けた耐火木造部材を使用、国内初の大型木造耐火ホールとなる山形県南陽市新文化会館の工事が戸田建設・松田組・那須建設JVなどの施工で進められている。火に弱いという木造建築の弱点を克服し、森林資源を地域産業に結びつけて木材利用の新たな可能性を広げる試金石として注目されるこの事業を陣頭で指揮する関宏和作業所長(戸田建設)に話を聞いた。  大建設計が設計・監理する新文化会館の規模は、木一部RC造地下1階地上3階建て延べ5883㎡… Read More
  • 【次代を担う】「QCDSE」徹底を実感「ららぽーと富士見」現場 工学院大学・萩原由佳 広域集客型の大規模商業施設、いわゆるリージョナル型ショッピングセンターとなる「ららぽーと富士見」の建設工事が最盛期を迎えている。場所は埼玉県南東部の富士見市内。東京・池袋を起点とする東武東上線沿線に位置し、首都圏ベッドタウンとして発展を続けている。沿線最大級となる施設規模は延べ床面積約18万5000㎡。隣接して市役所や市民文化会館も立地し、都市機能の一層の集積が計画されている。施設整備のコンセプトは「都会と自然との接点」。設計施工を担当する… Read More

0 コメント :

コメントを投稿