江戸幕府直轄領で、中山道の宿場町として栄えた埼玉県の「浦和」は、県政・文化の中心都市であり、高級住宅地としても知られる。その玄関口となるJR浦和駅から徒歩約18分。サッカーの“聖地”浦和駒場スタジアムにほど近い住宅地で、分譲マンション「ブランシエラ浦和駒場」の建設が急ピッチで進んでいる。施工者は長谷工コーポレーション。同社にとって事業計画から開発推進、設計、施工、そしてインテリア・内装、販売、管理までを初めて女性中心で展開するプロジェクトだ。その建設現場を日本大学生産工学部建築工学科の居住空間デザインコース(渡辺康教授)3年生の女子学生17人が訪ねた。甲山冴子さんが代表リポートする。
ブランシエラ浦和駒場の建設現場は、一般的な現場と違い、女性が多く活躍する華やかな現場である。女性の社会進出が進んだ今、施工管理の分野でもその数は年々増加しているが、それでも男性に比べると圧倒的に少ないのは事実である。そんな中、女性が多い現場は大変珍しく、とても興味深いプロジェクトである。
◆働く人に優しい職場
上層階への動線となる仮設足場は、狭くて天井の低い階段とネットのみで囲われた空間で、少しの油断が事故に直結するという状態で常に緊張感があった。また、それぞれの階で作業の工程が異なり、建物ができていく様子を実際に見ることができ、座学で学んだ内容の理解がより深まった。
高所を慎重に移動する |
一方で、休憩室をのぞくとそれまでの雰囲気とは打って変わって、そこには和やかな空間があった。一般的な建設現場では見られない、更衣室やシャワー室、化粧台やパウダースペースなど、女性ならではの視点で考えられた設備がそろっており、女性作業員に対する細やかな配慮が感じられた。仕事をするにあたって「働きやすい環境」はやる気にもつながり、職員の意識改善による事故防止にもなるだろうと思う。
女性専用の休憩室で説明を受ける |
また、周辺環境にも気を配り、仮囲いや看板、掲示物にも花のデザインを施して「魅せる現場」としての工夫がされていた。このような現場は他に見たことがなく、とても新鮮で、建設現場であることを忘れるような空間だった。
◆対応力が求められる
スラブ配筋など進捗状況の説明を受ける |
コンクリート打設前のスラブ配筋を見学中に突然、雨が降り出した。しかし、現場の作業は中断することなく「台風が来ない限り作業は続行する」と聞いて驚いた。
建設現場では多くの業者、職人がかかわっており、すべての作業を滞りなく行うには施工計画が重要であり、工期が遅れれば多方面にその影響が出て計画は狂うことになる。予期せぬ事象にも柔軟に対応できなければ工期中に建物を完成させることはできない。これは現場だけの話ではなく、どんな場面でも共通することだろうと思う。期限を厳守し、己の責務を全うすることは人として最低限守らなければならない規則ではないだろうか。施工管理は、常に全体の流れを把握し管理する重要な役割だと改めて実感した。
◆現場の声を直接聞く
フロアごとに進捗の違いを教えてもらう |
一通り見学した後の質疑応答では、現場所長や次席の方を交えて、施工管理についての質問から仕事をする際の心構えなど、話題は幅広く多岐に及んだ。中でも、仕事のやりがいについて「建物が完成したときに最もやりがいを感じ、衣食住のひとつを提供していることを誇りに思う」という次席の言葉が印象的だった。人が生きていく上で欠くことのできない「住」を自らの手で生み出すことは、責任も大きいが、やりがいや達成感も大きいのだなと教えられた。
例えば、このプロジェクトの利点として「発言のしやすさ」が挙げられた。学生からは「大学の授業で女子学生のみのグループか男女混合のグループかによって発言の回数が異なり、同性同士のほうが意見を言いやすく話しやすい」という考えもあり、この意見には納得できた。
見学後にあ質疑応答も活発に行われた |
また、女性が多く働いている現場ならではの質問も相次いだ。その中で、産休や育休は取りやすいかという質問に対しては「現在は育休や産休が馴染みだした時期であるため、まだ多くの取得事例はないが、制度は整っているため安心して働けている」ということで、これから就職について現実的に考えていく私たちにとって大いに参考になった。
◆見学会を終えて
今回が初めての現場見学という学生が多かった中で、同じ女性として生き生きと働く姿を見て、たくさんの刺激を受け、今後の進路選択にとても参考になる充実した1日だった。
所長、次席、三席と一緒に |
見学した学生からは「働きづらい環境なら自ら働きやすい環境に変えれば良いと思った」という積極的な意見もあり、今回の現場で学ぶことは多かったようだ。
今後は将来の方向性を決めつけず、視野を広げて柔軟に考え、より社会に貢献できるよう邁進していきたい。また、今回は施工のみの見学だったが、ここで学んだことを生かして今後の設計学習では、女性ならではの意見を取り入れた新しい提案をしていきたいと思う。
■引率雑感 女性の積極性や自主性引き出す
日本大学生産工学部建築工学科・渡辺康教授
ブランシエラ浦和駒場は、女性だけのチームによる企画から設計・施工・販売まで行うマンションの計画とのことで、日本大学生産工学部の建築工学科の中の女子学生30人の居住空間デザインコースに告知し、見学参加者を募った。
引率して感じたことは、女性だけのチームにすることで、女性の積極性や自主性を引き出し、能力を生かそうとすると同時に、女性ならではの配慮や細やかさ、柔らかさ、人間関係の機微とそこから生まれる発想などが生かせるなら素晴らしい試みだと思う。実際、大手設計事務所の中にも女性チームの企画グループが生まれていると聞いているので、今後も増えていく可能性があると思う。
◆工事概要
□工事名称=(仮称)HC大成有楽浦和駒場計画新築工事
□建設地=さいたま市浦和区駒場1-113-1ほか
□建築主=長谷工コーポレーション、大成有楽不動産
□設計・施工=長谷工コーポレーション
□工期=2015年9月-2017年3月
□敷地面積=5759.85㎡
□建築面積=2502.99㎡
□延べ床面積=1万2337.09㎡
□構造・規模=RC造地上7階建て
□用途=共同住宅
□住宅戸数=146戸
□駐車場=53台(平置き)
◆参加者の声
岩田 萌季さん
施工の世界を知らなかったので、良い勉強になった。男性だけでなく女性も生き生きと働ける雰囲気がとても良いと思った。
宇多 紫織さん
女性目線で行われる現場を目の前で見ることができ、格好いいと思った。就活の視野が広がり、改めてものづくりの良さを実感した。
加瀬 夏子さん
今回現場見学会に参加して、施工管理という仕事により興味を持つことができた。職場の雰囲気も良く、良い経験になった。
加藤 凪紗さん
初めて現場見学に参加して、女性が多い現場で今まで抱いていた現場の印象が覆され、とても勉強になった。
川北 優花さん
女性を中心とした現場は新鮮で、女性が働く環境づくりに力を入れていて、現場の仕事に対するイメージが変わる、とてもいい体験になった。
甲山 冴子さん
作業を滞りなく行うために、職場環境の改善策を自ら企画し実行することの大切さを学んだ。仕事に対して積極的な姿勢が印象的だった。
小棚木 裕里奈さん
現場で働く女性の方から、仕事のやりがいなど、さまざまな話を聞くことができ、将来の参考となった。とても貴重な体験だった。
後藤 慧美さん
いままでの現場とは違う一面を見ることができた。とても刺激を受けた。女性が活躍する姿を見て、将来の可能性の幅を広げることができた。
塩田 新菜さん
いままで思っていた現場のイメージと違い、女性の職人の方が多く、女性専用の更衣室も充実していて働きやすい環境だと感じた。
清水 沙耶さん
今回の見学会で建築現場のイメージが変わった。また、女性が中心となって現場を動かしている姿を見てすごく頼もしく感じた。
高橋 佳奈さん
集合住宅の現場を見学したのは初めてで、現場で働く女性の方の話を聞くことができ、貴重な経験になった。
本間 菜月さん
建設現場は閉鎖的なイメージだったが、今回の現場は装飾や植栽など外部に配慮されていて女性ならではだと感じた。
向佐 葉奈子さん
現場は男の人が多いというイメージがあったが、建築業界に女性の活躍の場が広がりつつあることを明快に見ることができ、良い体験となった。
室伏 香穂さん
実際の現場を見学してとても貴重な体験ができた。女性が多い現場は珍しく、職場環境の充実も魅力的だった。
八橋 夏菜さん
設計プランに家事や子育てのしやすさを考慮した快適な住まいが提案されており、女性チームならではの工夫が現れていて素敵だった。
山田 莉沙さん
今回女性の多い現場の見学という貴重な体験をさせて頂き、現場での仕事がとても魅力的に感じ将来の選択肢が広がった。
若林 真由さん
女性専用の休憩室を説明された所員の方の口調から、その場所への愛着を感じ、働く場所に居場所があるということは重要であると感じた。
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