2014/12/14

【現場最前線】視覚化・VE提案で工程短縮にまい進 大型木造耐火ホール南陽市新文化会館

主要構造に大臣認定を受けた耐火木造部材を使用、国内初の大型木造耐火ホールとなる山形県南陽市新文化会館の工事が戸田建設・松田組・那須建設JVなどの施工で進められている。火に弱いという木造建築の弱点を克服し、森林資源を地域産業に結びつけて木材利用の新たな可能性を広げる試金石として注目されるこの事業を陣頭で指揮する関宏和作業所長(戸田建設)に話を聞いた。

 大建設計が設計・監理する新文化会館の規模は、木一部RC造地下1階地上3階建て延べ5883㎡。1300席を備える大型ホールの最高高さは24.5m、最大スパン28mの上部架構形式は大断面集成材ブレース構造で、3次元トラスで構成する大梁を5本1組の柱で受ける。柱を含む木構造部材製作工事はシェルター(山形市)が担当。国内初の2時間耐火認定を受けた同社の「COOLWOOD」の1時間耐火仕様が使われる。地元で伐採された丸太は、スギとカラマツ合わせて1万2413m3。「地元森林組合の3年分の仕事」(市担当者)という。

関宏和作業所長(戸田建設)
BCS賞などを受賞した「リアスホール」(岩手県大船渡市)と「カダーレ」(秋田県由利本荘市)の施工を経験した関所長は、「誰も経験したことがない構造に加え、16カ月の工期中に2度も冬を経験するため、あらゆる方法で工程短縮に努める」と語る。

実物大のモックアップ
作業着手前には、現場事務所前に実物大のモックアップを製作し、複雑な構造を理解するとともに工具や工程、所要時間、安全と施工性を両立する足場の組み方などを確認。キャットウォークの一部も製作し、さまざまなVEを提案した。「リアスホールから付き合っている気心知れた職人さんも多いが、作業工程をイメージしやすいようにビジュアルで見せたことで、手戻りがほとんどない」と費用対効果を強調する。
 工事は13年11月末に着工。同市は全国有数の軟弱地盤地帯だけに、建設地でも湧水に悩まされた。冬季中に大型のスタビライザーで地盤改良を行い、深さ36mの杭を177本打設し、基礎のプレキャスト化で工程を短縮した。

3次元トラスで構成する大梁
柱や梁は工期短縮と安全性向上のため、作業ヤード内で木材と接合金物をユニット化。製作したユニットは94個で、3台の大型クレーンをフル稼働し、見るものを圧倒する木造ホールを立ち上げた。これらは約19万本ものドリフトピンやスクリューボルトなどで接合している。

3台の大型クレーンがフル稼働する
施工の際は「竣工後に想定される不具合の解消やメンテナンスコストの削減を常に心掛けている」と語るように品質管理を徹底している。建て方が長期間になるため、同社の技術研究所と協力し、木材に保護塗料を塗布して暴露試験を実施するなど、さまざまな試験施工を経て、より品質を高めるためのVE提案をしている。
 昨年7月の集中豪雨では同市中心部にある吉野川が氾濫(らん)して、2000戸以上の浸水被害を受けたが、「これまでの経験を生かして事前に対策していたため、現場には大きな被害は無かった」という。

施工中のメーンホールの舞台部分には『一生の思い出 誇れる仕事をしよう!日本初の木造耐火ホールへの挑戦』と関所長の熱い思いを込めたスローガンを掲げている。作業員の中から毎月1人を月間MVPとして表彰するなどし、200人体制の現場の士気を高める。また、作業所一丸でアルミ缶を集め、車椅子と交換。「完成後にホールに寄贈したい」と話す。来年3月の工期末に向け、関所長の厳しくもあたたかい声が今日も現場に響く。
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