2014/06/04

【現場最前線】新校舎で卒業式を! 子どもらの応援受け現場団結 福島の鏡石第一小改築

東日本大震災から3年が過ぎた、ことし3月20日、校舎が被災しプレハブの仮設校舎での生活を余儀なくされた福島県鏡石町立第一小学校の6年生112人が約2カ月前に完成した新校舎で卒業式を迎えた。施工に当たった仙建工業の山田耕司所長は、「『6年生を新校舎から卒業させてあげたい』との想いが現場を結束させ、工期内の完成にこぎ着けられた」と振り返り、児童の晴れがましい姿を観覧席から温かく見守りながら、「卒業生は復興の希望であり、何よりも(新校舎からの卒業という)約束を守れたことがうれしかった」と目を細める。

 新校舎の着工は2012年12月。しかし、深刻な資材不足により、本格着工となる杭打ちに着手できたのは「13年3月に入ってから」。それに追い打ちを掛けるように労務不足にも直面した。「職人が予定の半分しか集まらない」という危機的な状況に陥り、工期内の完成に黄信号がともった。

建築現場の全景
その暗雲を払拭したのが現場で働く職人たちだった。「職人が知り合いの職人に声を掛けてくれ、それがどんどん広がっていった。鉄筋工は地元だけでなく、遠くは長野県からも応援に来てもらった」。その結果、最終的には必要な人員の約3分の2まで集まった。現場スタッフの橋本久章工事主任は「周りを見渡しても、これだけ人が集まっている現場はなかった」と振り返る。

設置された意見箱と寄せられた子どもたちの手紙。返事も貼りだした
現場に最も活力を与えてくれたのが、小学校の子どもたちの存在だった。設置した意見箱には、子どもたちから500通を超える便りが寄せられた。当初は「私たち6年3組は、新校舎には入れるかギリギリのラインです。新校舎を早めにつくってください」「新しい学校を楽しみにしているのでお願いします」など不安や期待の声が多かったが、夏の猛暑の頃になると、「少しは休んでください」「風が吹くときもありますが頑張ってください」「雨の日もご苦労様です」など職人の体調を気遣う声へと変化していった。

職長会も一致団結して取り組んだ
ある若手の職人は、現場に掲示された子どもたちの便りを読み、涙ぐみながら「俺、頑張りますから…」とつぶやいた。
 13年10月15日にこぎ着けた上棟式では、各学年のクラスから届いたメッセージボードをクレーンで現場に掲げ、全校児童を対象に現場見学も行った。水沼栄寿教頭は「見学する子どもたちの姿を職人さんたちがうれしそうに見ていたのが心に残っている」と話す。
 完成を翌月に控えた13年12月、山田所長は決断に迫られていた。「元日も仕事しなければ工期に間に合わない…」。ちょうどその時期、周辺地域で学校など公共工事の工期延長が相次いで決定し、「この現場も工期延長するんじゃないかという雰囲気が漂い始めていた」。その矢先、橋本主任が職人を説得し、元日の仕事を決め、報告してきた。山田所長は「元日は毎年来るが、今の6年生の卒業は一度きり。職人たちもそういう気持ちになってくれた」と説明する。

現場見学会で、子どもたちからインタビューを受ける
小学校の全クラスからクリスマスに届いた励ましの色紙も気持ちを後押しした。水沼教頭は「毎日遅くまで仕事をしている職人さんたちに感謝の気持ちを伝えたかった。クリスマスに間に合って良かった」と思いを明かす。

新校舎で学ぶ子どもたち
「心を1つに一致団結!~共につくり未来へ繋ごう~」というスローガンの下、新校舎は工期内に無事完成し、2月10日から新校舎での授業が始まった。子どもたちが新校舎に足を踏み入れて最初に漏らした感想は「あー暖かい」。プレハブの仮設校舎は2月ごろ非常に寒く、教室の中でも氷点下だった。
 卒業式当日、石山晃司校長は「正月も現場を続けて一生懸命働いて卒業式に間に合わせてくれた現場の皆さんを始め、たくさんの方々の協力があって新しい校舎に入れたことを忘れないでほしい」と卒業生に語り掛けた。
 現場は、日本建設業連合会の13年度快適職場表彰で、応募総数117件の中から最優秀賞に輝いた。山田所長は「今回の受賞はいつも応援してくれた子どもたちからの最高の贈り物と思っている」とほほ笑む。

 【工事概要】
▽発注者=鏡石町▽設計・監理=福島県建築設計協同組合
▽施工=仙建工業▽規模=RC造2階建て延べ6246㎡▽工期=2012年12月11日-14年1月31日▽敷地面積=2万5121㎡▽建築面積=3821㎡▽建設地=鏡石町中央1番地
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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