2014/06/18

【新国立競技場】施工可能なカタチに ザハ事務所チェッカート氏

新国立競技場の国際デザインコンペで最優秀を獲得し、設計のデザイン監修業務を担当するザハ・ハディド・アーキテクツ(英国)が、東京都内で開催したダッソー・システムズのユーザーイベントで特別講演し、プロジェクト関係者との情報共有やデザインプロセスの重要性について語った。新国立競技場の斬新なデザインを下支えするのは、3次元モデルの要素に数値変数(パラメータ)を定義し、その変化によって多くの形状を生み出す「実現可能」なパラメトリック・モデリング手法であった。写真は同事務所アソシエイトのクリスティアーノ・チェッカート氏。

 イベントが開かれたのは日本スポーツ振興センター(JSC)が新国立競技場の基本設計を発表した日から5日後の6月2日。壇上に立った同事務所アソシエイトのクリスティアーノ・チェッカート氏は「新国立競技場のデザインは今も深化を続けている」ことを強調した。コンペで最優秀案に輝いた最初のデザインを出発点として、設計パートナーとは密接なデザイン検証を進めてきた。ロンドンと東京をネットワークでつなぎ、プロジェクト全体の細かなワークフローについても同時進行で情報共有した。
 「精度を追求し、そこにさまざまな情報を付加しながら、より合理化したデザインへと姿を変えていく。具体のモデル設計にまで落とし込み、さらに深化させる」。これがパラメトリック手法を採用するザハ流のデザインプロセスである。「考察すべきデザインの視点は多種多様であり、五輪競技場という使われ方だけでなく、そこで催されるイベントやコンサートなど、あらゆる場面を想定したデザインの検証が必要になってくる」と、チェッカート氏は焦点を絞り込む。
 ロンドン五輪で手がけた水泳競技場では、観客席のあり方までこだわった。「その席から見える競技風景、さらにはテレビ放映された時の観客席の映り方も気にすべきポイントだった」。曲線美が印象的な北京の複合施設「銀河SOHO」などのように複雑な建築では「達成可能なデザイン検証」にも力を注いだ。
 「重要なのは再構成可能なパラメトリックデザインであること。コンピューターの中には情報があり、そこでソリューションの最適化を行う。構成要素はデザイン、素材、組み立て方など多岐にわたる。デジタルの中で生み出したカタチは、最終的に現実のカタチとして仕上げる。つまりデザインは生き物であり、常に深化し続けていくのだ」

日本スポーツ振興センターの有識者会議で展示された新国立競技場の模型(基本設計)
この考え方は、新国立競技場のデザインプロセスに通じている。「今もなお、あらゆるシーンを想定し、デザインを検証している。当然、施工可能なカタチを導いていく視点も欠かせない。建築可能なデザインとは何かを考える時、耐震性や施工性も重要な視点であり、それにはコンピューターをフル活用した詳細なモデル検証が不可欠になってくる」
 自動車や飛行機のような工業製品と異なり、建築生産では多岐にわたるプロジェクト関係者と密接に情報を共有した作り込みが求められる。「情報の相互運用性が問われ、関係者間では情報の損失がないように正確な情報サイクルの確立が欠かせない。新国立競技場でも常にパートナーとの対話があり、そこから生まれるデザインは常に深化を続けている。それは、われわれにとっても実に楽しみなことである」

参加者は最新プランを食い入るように見つめた
これまでの豊富な設計経験の中で得たのは「一群のデザインソリューションの中から最適解を選び、プロセスの仕方までをもデザインに取り組む」手法だった。設計から施工に至る建築生産プロセスでは、リアルタイムに量、時間、コストなどさまざまな情報が関係者間を行き来する。新国立競技場では、まさに最先端のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が展開されている。
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