2014/06/07

【福島再生】新たな歴史的使命帯び、ふくしま国際医療科学センターが着工

既存病院を囲むように配置する
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、福島県民の生活や自然環境を一変させた。こうした中、同県の中核的医療拠点である県立医科大学には、県民を放射線被ばくによる健康被害から守り、長期間にわたり見守るという新たな歴史的使命が課せられた。「人類が経験したことのない未知の領域への挑戦」(菊地臣一理事長兼学長)に向けて、事業の拠点となる『ふくしま国際医療科学センター』の建設工事が1日、福島市光が丘の同大学敷地内で本格着工した。医療を通じて新生・福島の創造に貢献する。設計は日建設計。工事は4工区延べ21社が担当し、2016年春の完成を目指す。

 福島第一原発事故後、多くの県民が放射線被ばくによる発がんリスクなどの健康不安を抱えたまま、避難生活を強いられているほか、情報不足による風評被害などで産業も大きな打撃を受けている。医師や看護師などの医療人も減少傾向にある。
 これらの課題に対応するため、同医科大は12年11月に「ふくしま国際医療科学センター」を設立。全県民を対象とする健康管理調査の実施や、最先端の医療設備と治療体制の構築に加えて、医療関連産業を振興させ、医療面から福島の再生と活性化を担う。また、長崎・広島両大学や放射線医学総合研究所・放射線影響研究所を始め、IAEA(国際原子力機関)からの客員教授の招請など、国内外との連携も進めている。
 国際医療科学センターは、全県民の心身の健康を守るための事業を展開する「放射線医学県民健康管理センター」と、画像診断などによる“核医学”と呼ばれる最先端医療と緊急被ばく医療を融合させる「先端臨床研究センター」、国内トップクラスの医療設備と体制を整える「先端診療部門」のほか、「医療・産業トランスレーショナルリサーチセンター(TRセンター)」は、医療界と産業界を橋渡し、新薬や試薬、医療機器の開発を支援。「教育・人材育成部門」では、医師や看護師などの医療人材養成に加えて、災害におけるメンタルヘルスのあり方を考える「災害こころの医学講座」を開設し、多くのエキスパートを世界に輩出する方針だ。
 センターの建物は、既存の付属病院を囲むように配置する。このうち、A棟(S一部RC造地下2階地上9階建て延べ9960㎡、制振構造)はTRセンターと教育人材部門、先端臨床研究センター機能で構成し、ガンマ線発線装置や動物用PET-CTなどを備える。

A棟
B棟(RC造2階建て延べ872㎡)は、先端臨床研究センターの環境動態調査部門として質量分析エリアと環境動態実験室エリアを分割。放射能測定機器などを設ける。

B棟と受電施設
C棟(RC造地下1階地上3階建て延べ5382㎡)は、先端臨床研究センターとして臨床と研究双方に活用するサイクロトロン2台を設置するほか、画像診断や治験・診療研究、遠隔診断部門などで構成する。

C棟
D棟(S造地下1階地上8階建て延べ2万4000㎡、免震構造)は放射線治療や3次被ばく患者対応の放射線隠へい病室などの先端診療部門と、県民健康管理センターがメーンとなる。このほか、新駐車場(収容台数1600台)も造成する。

D棟
この日の神事には、菊地理事長兼学長や佐藤雄平知事ら関係者約140人が出席。代表者が鍬(くわ)入れした後、神前に玉ぐしをささげ、工事の安全と1日も早い完成・供用開始を祈った。

鍬入れする(左から)先崎温容県議、菊地理事長兼学長、佐藤知事
この後、あいさつに立った菊地理事長は「福島の悲劇を奇跡とするため、このセンターの活動を通じて県民の健康を守り、福島が再生していく姿を全世界に発信していきたい」と語った。佐藤知事は「全国に誇れる健康長寿県を目指す本県にとって最も重要な施設であり、世界の英知を結集して未来にわたり県民の安全の中心的役割を果たしてほしい」と期待を寄せた。
 施工者を代表してあいさつに立った佐藤工業の佐藤勝也社長は「センターが担う歴史的使命の重要性を認識し、全工区全工種21社が一致団結しながら、安全を最優先に施工を進め、無事故・無災害で高品質の施設を完成させたい」と意気込みを語った。

   *   *

 施工企業は次のとおり。
▽A棟=佐藤工業(福島市)・菅野建設・安藤組JV(建築)、エディソン(電気)、北関東空調工業・八ツ橋設備JV(機械)。
▽B・C・受電施設棟=戸田建設(建築)、須南電設・広栄電設JV(電気)、文化設備工業・会津ガスJV(機械)、ユアテック(受電施設棟受変電設備)。
▽D棟=鹿島(建築)、大槻電設工業・ユアテックJV(電気)、第一温調工業・石田工業所JV(空調)、光和設備工業所・コバックスJV(給排水衛生)。
▽駐車場=壁巣建設・世紀東急工業JV。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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