2014/07/10

【都市景観】東京の未来をゼネコン5社の設計本部長が討論 aacaシンポ

「前回の東京五輪では“東京の顔”が変わった。2020年に東京五輪では東京がどう変化するのか、スーパーゼネコンの設計本部長から都市景観への取り組みをお聞きしたい」。日本建築美術工芸協会(aaca)の岡本賢会長は3日に東京都港区の東京ガス本社で開いたシンポジウム「新しい景観へ-東京のこれから-」の趣旨をそう説明した。建築・まちづくりにおける景観の重要性が高まる中で、スーパーゼネコンは都市景観の未来をどう描くのか。

 シンポジウムには鹿島の尾崎勝建築設計本部長、清水建設の栗山茂樹設計本部長、竹中工務店の車戸城二設計本部長、大成建設の河野晴彦設計本部長、大林組の小林照雄設計本部長が参加した=写真。
 まず、尾崎設計本部長が「創造(建築)、記憶(時間)、成熟(環境)」をキーワードに自社の設計施工プロジェクトを紹介。現代を都市と建築の関係がより密接なものになる時代とした上で、都市と建築を双方向に関与させながら景観を考える重要性を強調した。その上で「成熟社会を迎え、すべてを内部に囲い込む建築ではなく、地域と共生する接点としての建築が求められている。スクラップアンドビルドや建築単体の多様性を追い求めるのではなく、過去の歴史や地域の資産を引き継いで未来に手渡す都市と建築の関係性を追求する必要がある」と提起した。
 栗山設計本部長は1964年と2020年の東京五輪の違いを「少子高齢化による人口の年齢構成の変化」としてとらえ、「64年の五輪は東京が成長する道筋を示したが、20年には施設整備を通じて魅力ある都市の指標がつくれるかどうかが問われている」と指摘。「20年は通過点であり、その先には人口が減少し、東京への一極集中や巨大地震への備え、インフラ更新といった課題に対応しなければならない」とした。
 景観については「将来の東京が魅力あるまちであり続けるための手段」と語り、建築単独ではなく、街区やエリアで考えることで「点から線、面へとつながる魅力的なまちづくりができているのではないか」と述べた。また、そのための手段として「設計に携わる人間は、景観をデザインや造形力だとイメージするが、景観づくりには行政や地域住民と協力した連続的・継続的な取り組みが必要になる」とし、「魅力的なまちづくりのためには地域との共生や関係者とのコミュニケーション能力が重要であり、われわれ設計者が取り組まなくてはいけない範囲は広がりつつある」との認識を示した。
 車戸設計本部長は「現代は都市景観にとって受難の時代だ」と強調。「オーナーは自分の敷地に自分が欲しいものをつくり、その建設の残余として都市空間が生み出されている」ために「都市には多くの屋外スペースがあるにもかかわらず、都市空間を感じることがない」と喝破した。都市空間の成功事例として銀座、ボストン、ニューヨークなどの事例を取り上げた上で「受難の時代だからこそ主体的に外部空間をつくる試みが大切になる」と力説。さらに「都市景観は都市の総体的な印象によって生まれるため、建築がそこでどんな言葉を発し、建築と都市の間でどんな相乗効果を生み出すのかを考えなくてはならない」と指摘した。
 また「発展しない都市に建物を建てるのは大きなリスクになる」と投資家の視点についても言及し「われわれは建築単体でとらえ、それが将来うまくいくかどうかを考えてしまうが、世界中の投資家はその都市が発展するかどうかをみている。どんなに良い土地や良いデザインがあったとしても、都市の発展が見込めなければ投資する価値がない。われわれは1つの建築を素晴らしいものにすると同時に、まち全体がより良いものになる方向性を示し、可能性を予感させるデザインをする必要がある」と呼び掛けた。
 河野設計本部長は再開発を例に「それぞれの都市と都市をつなげることで新しい東京が生まれる」と指摘。クロスエアタワーと大橋ジャンクション、大手町タワーと大手町駅、品川シーズンテラスと東京都の下水処理場などのインフラ連動型再開発を取り上げ、「建築とインフラ、再開発と再開発とが接続していくことで、新しい東京の魅力的な景観が生まれつつある」と述べた。
 また小林設計本部長は多様性の切り口から都市景観のあり方を分析し、整然とした景観を整備するだけでなく、さまざまな価値観を受け入れるため意図的に混沌とした部分を設ける必要性を強調した。「自分は設計者の立場で都市景観を見るが、社会には投資家や観光客、地域住民の視点があり、それぞれの評価がある。都市とは経済や文化活動を行う場であり、高密度となるのは必然的な流れだ。しかし、だからこそ都市の余白が生む意味が重要になる。誰のための景観か、良い景観とは何かを改めて考える必要がある」と力を込めた。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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