2014/07/02

【現場の逸品】車の風でトンネル壁面を掃除 超シンプル用具「風ホウキ」【記者コメ付き】

風に揺れる布でトンネル内をきれいにするメンテナンスフリーのトンネル内部清掃用具「風ホウキ」--。2013年度に富山県内の直轄工事で採用され、その成果が評判を呼んでいる。開発したのは西川鉄筋(富山県入善町、西川正勝社長)。設置された現場に行ってみた。
【執筆者から:「口で言っても信じられないでしょ。百聞は一見にしかず」。説明もそこそこに、連れて行かれた現場に着いたとたん、驚きとともにすべてを納得できた。西川社長はアイデアマンだ。これまでもいろんな仕掛けを“発明”している。「新分野進出」などといった概念とは全く無縁の、自身の好奇心に拘る視線が「新たな道」を開いてくれるのかも知れない】

 風ホウキは、約3cm角の薄いプラスチック板に長さ60cm、幅1.5cmのひも状の特殊な布を取り付け、トンネル内の壁面に粘着テープで板部分を貼り付けるだけ。あとは車が通行する風圧で布がひらひらと揺れ、壁面の汚れを自動的に“拭き落とす”という至ってシンプルな仕組み。12年11月に特許も取った。
 設置された現場は、国道8号の富山県朝日町にある長さ1200mの城山トンネルと210mの横尾トンネル。内装板に2トンネル合わせ4800本を取り付けた。車の風圧でプラスチック板を支点に布が回転し、半径60cmの円形エリア、総面積の約9割相当の汚れを拭き落とす。
 内装板の汚れは油分を含んでおり、指でこすっても落ちない頑固なものだが、布のこすれる摩擦力(清掃力)は予想以上に強力で、布の届かない部分との違いは一目瞭然。トンネル内の照度は格段にアップしている。視線誘導効果も向上し、交通安全性も確実に上がっているように見える。トラックが通過する風速10m程度で、風ホウキはひらひら、くるくる勢いよく回る。

風ホウキは長さ60センチ、幅1.5センチ
布は富山県の研究所のアドバイスで生地を選択した。車のシートなどに使われているPEトリコット製で、ほつれにくく破れにくい。西川社長によると耐用年数は2年以上はある。トンネル内の内装板のほか、タイル面、ペンキ塗装面、コンクリート面でも有効だ。重量は1個当たり4グラムと軽量で、金属も使っていない。取り付けは壁面の汚れをシンナーなどで落した上で、プラスチック板の両面テープのシールを剥がして貼り付けるだけだ。

西川正勝社長(西川鉄筋)
西川社長は開発したきっかけについて「トラックがタイヤをきれいにするためにゴムチューブをぶら下げて走っているのにヒントを得た」という。同社の社屋や自宅の壁面、窓ガラスにも風ホウキが所狭しと取り付けられ、その部分は円形にすっぽりと汚れが落ちている。
 同社は製造に特化。総販売代理店の金岡忠商事(富山市)に加え、日本交通興業(富山県)、宝菱産業(大阪市)、寿建設(福島県)の3社を販売代理店に決めるなど、販売体制も確立した。定価は1個1000円。今後は国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)への登録のほか、高層ビルなど他用途展開にも乗り出し、販路拡大につなげていきたい考えだ。富山県の13年度経営革新支援事業に申請し、ことし3月に計画が承認されている。
 西川社長は「風ホウキは一般の清掃用具に比べ、自然エネルギーを利用しているため、コスト面、環境面で優れていると思う。耐用年数はまだ検証段階だが、一度付ければ2年以上はメンテナンスフリー。車というユーザー(が起こす風)がトンネルをきれいにしてくれる」とアピールする。
 現在、全国の国交省や高速道路会社、地方自治体の発注工事約10現場で試験施工が行われている。同社は鉄筋工事業で、風ホウキは本業と接点はない。西川社長は「メーカーとして量産できる態勢も整えている。本業の売上げの補填になればありがたい」と話す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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