2014/07/25

【建築】妹島和世氏設計の「すみだ北斎美術館」 構想25年、ついに着工へ!

東京都墨田区は、90年の生涯のほとんどを区内で過ごしたとされる世界的な浮世絵師・葛飾北斎を顕彰するとともに、新たな地域活性化拠点となる「すみだ北斎美術館」を、生誕の地と言われている本所割下水(現墨田区亀沢)に建設する。プロポーザルで選ばれた妹島和世建築設計事務所による斬新な設計の建物は、幾多の困難を乗り越えて7月末に本格着工を迎える。

◆下町市街地と調和

 区が2009年に実施した基本設計プロポーザルには176者から提案書の応募があり、この中から10者に絞り込んだ最終審査で妹島和世氏(妹島和世建築設計事務所)を最優秀提案者として特定、契約した。

浮世絵作品の保存展示に配慮し、建物全体としては閉じながらもスリット部分からは館内の様子がうかがえる
妹島氏は、縦のスリットが入り、いくつかの建築が合体したような形状をした建物を提案。1階部分は4ブロックに分かれているが、地下階と2-4階はワンフロアの構成となる。外壁には淡い色調の鏡面アルミパネルを採用。下町の風景が映り込むことで周辺地域との調和を図るとしている。

4階常設展示室イメージ
審査講評では「下町市街地のスケール感とも調和しつつも、街の新しいシンボルとなることが期待できる、従来の公共建築にない新しさ、可能性を感じる建物」と高い評価を得た。

◆初年度に20万人

 区は当初、11年度中の着工を予定していたが、同年3月に東日本大震災が発生。これを踏まえ、当面は地域防災力を向上する事業に重点を置くこととし、2年程度の着工延期を決定した。合わせて、利用者の動線計画を見直すなど同施設そのものの震災対応力も高めるため、設計を一部修正した。
 計画中断を経て区は13年7月に新築工事を一般競争入札したが、復興需要の拡大を背景とした資材や人件費の高騰などの影響も受け、参加2者が辞退し不調。翌8月には「施工上の困難性も加味した」(墨田区)上で予定価格を引き上げて再公告したが、地盤調査の結果、地下に構築物があることが分かり、建築工事の入札を中止、これに伴い仮契約段階だった設備工事2件も失効となった。
 3回目となる入札で建築、設備の施工者がようやく決まったのがことし5月。この間、区は使用資材の見直しなどによるコスト削減に努め、予定価格や工期も見直した。
 現時点で見込む建設工事費は34億円。土壌汚染対策や地下構築物撤去を加えた総工費は38億円となる。今後、16年4月下旬の竣工、同年度中の開館を目指す。東京スカイツリーと並ぶ観光拠点としての期待は大きく、来場者数は初年度が年間20万人、2年目以降は年平均14万人を見込んでいる。

「墨田区の地域振興、活性化を図る一つの拠点」と語る山﨑区長
区は、今月22日から開館までの3年間で5億円を目標額とする寄付キャンペーンを始めた。山﨑昇区長は17日の会見で「寄付は区民の負担を減らす狙いもあるが、運営に参画していただく意図もある。建設費だけではなく、資料購入、運営費にも使わせていただきたい」との考えを示した。

◆両国地域全体の魅力高める

 区が基本計画に「北斎館(仮称)」の建設計画を盛り込んだのは1989年。当時の竹下登首相が発案した「ふるさと創生事業」により、全国自治体に交付された1億円を原資に資料の収集を始めた。
 93年には、世界有数の北斎作品収集・研究家のピーター・モースのコレクション約600点を遺族から一括取得した。区はこれまで16億7500万円をかけ、約1500点の資料を集めた。
 05年には建設予定地として亀沢2-24の敷地2017㎡を取得したが、北斎通りに面しているなどの理由から07年に緑町公園内(亀沢2-7)の旧テニスコート敷地1254㎡に整備することに決まった。緑町公園は両国駅と錦糸町駅の間に位置する。江戸時代には弘前藩津軽家の大名屋敷があった場所で北斎は屏風に馬の絵を描いたエピソードが残っている。
 両国観光まちづくりグランドデザインの実現に向けた計画では、緑町公園を含んだ地区の整備方針を「葛飾北斎の生誕地、暮らしとにぎわいが両立した北斎通りを中心としたまちづくり」と定め、両国地域全体の魅力向上を図る。

◆事業概要

▽建築主=東京都墨田区
▽設計=妹島和世建築設計事務所
▽施工=大林組・東武谷内田建設JV(建築)、大栄電気・事業開発社JV(電気設備)、浦安工業・沖山産機JV(空気調和設備)、浦安工業(給排水設備)、日立ビルシステム(昇降機設備)、丹青社(展示制作)
▽敷地面積=1254㎡
▽建築面積=699㎡
▽規模=RC一部S造地下1階地上4階建て延べ3280㎡
▽建設地=東京都墨田区亀沢2-7
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