2014/07/04

【土木】洪水との戦いは終止符を打つ! 「越後平野の守り神」3代目大河津分水可動堰

越後平野の治水の要、大河津分水。河川土木技術の粋(すい)に支えられながら、90年以上にわたって流域の人命・財産を守り続けてきた。「信濃川の歴史は洪水との戦い」と言われた時代が、いまやかすみつつある中で、その成り立ちと役割をひも解くとともに今後の展開を追った。
 3代目となる可動堰などの完成を祝う大河津分水可動堰改築事業の竣工式が6月29日、現地の新潟県燕市五千石地先で開かれた。中原八一国土交通大臣政務官や大河津分水改修促進期成同盟会長の篠田昭新潟市長、野田徹北陸地方整備局長のほか、泉田裕彦新潟県知事(代理)、佐藤信秋、塚田一郎両参院議員を含む地元選出の国会議員、流域自治体の森民夫長岡市長、鈴木力燕市長らが出席。参加者から異口同音に聞かれたのは、事業完了までの関係者の尽力に対する謝意と、信濃川水系全体のさらなる治水安全度の向上だった。

◆長きにわたる洪水との戦い

 もともと海だった越後平野は、信濃川や阿賀野川から運ばれた土砂の堆積により形成。川面に比べて低い土地が多いため、洪水時には越流した河川の水が流れ込みやすく、排水もままならないことから、被害の拡大につながっていた。享保期(1716-35年)には新潟県長岡市寺泊の本間屋数右衛門らが江戸幕府に対して同分水の建設を願い出たが、かなわなかった。明治維新後(1870年)にようやく工事に着手したものの、施工技術、費用負担などの問題に直面し頓挫。そこで空前の大水害となった「横田切れ(1896年)」が発生し、それを契機として1909年に工事を再開した。
 大河津分水は、信濃川が日本海に一番近づく燕市と長岡市までの約10㎞を掘削して造った人工河川。掘削土量は2880万m3に上った。世紀の大土木工事と言われ、当時の最新鋭の建設機械を投入し、延べ1000万人が作業に従事した結果、初代自在堰が完成し、1922年に通水を始めた。
 その後、自在堰が基礎下部の空洞化により陥没したため、31年に2代目の可動堰を建設。合わせて、第二床固めや床留めなどを整備した。2000年には信濃川本流側の洗堰の新築工事が完了。旧洗堰は国の登録有形文化財となっている。

◆改築事業10年で130社410億円投入

 可動堰の稼働から70年が経過し、堰柱、管理橋の劣化、基礎下部の空洞化などが顕在化してきたことから、03年に改築事業に踏み切った。新たな可動堰で通水を迎えたのは11年だった。河川の堰では珍しいラジアルゲート(6門)を設置し、そのうち4門はゲート上部に可倒式フラップゲートを取り付け、平時の流量を調整している。従前と比べて、川底を4m掘り下げたほか、堰幅も180mから267mと拡張し、流下能力を高めた。このほか、3タイプの魚道の設置、護床工での粗朶(そだ)沈床の採用に取り組んでいる。

早期の抜本的改修に向け調査、検討に着手している
大河津分水可動堰改築事業では、右岸側に高水敷を造成し、堤防を強化。右岸堤防に直接当たっていた洪水を分水路の中央に移すのが狙いだ。事業期間の約10年間で約410億円を投入、約130社が携わった。
 通常時や上流の洪水では、洗堰から信濃川本流の下流へ生活、かんがい、工業の各用水として必要な水量(1秒当たり270m3)を送る。一方、下流での洪水時には洗堰を閉じ、すべての水量を分水を通じて日本海に直接流す。渇水時は可動堰を閉めきって、洗堰から下流に水を供給する。
 現在の河道は一般的な河川と異なり、分流点(720m)より河口付近(180m)の川幅が狭くなっていることから、今後は抜本的改修へとシフトしていく。

6月29日に開かれた竣工式
信濃川水系整備計画(国土交通大臣管理区間)によると、水系全体の洪水処理能力を高めるため、大河津分水の抜本的改修を優先的に実施すると明記している。また、信濃川中流部の治水対策の計画段階評価では、大河津分水の山地部と河道の掘削を中心とする対応方針(築堤、第二床固め改築、分水路護床工、橋梁架け替え含む)をまとめている。工事費は1500億円程度を見込む。
 北陸地方整備局は抜本的改修の早期事業化に向けて、14年度から調査、検討に着手している。
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