2011/12/08

理科大でコンピューティショナル・デザイン・スタジオを立ち上げ/廣瀬大祐さん

 東京理科大大学院を卒業後、隈研吾都市建築設計事務所を経て米国コロンビア大大学院でコンピューティショナル・デザインを学んだ。現在、設計事務所「ARCHICOMPLEX」を主宰している。コロンビア大では、バーナード・チュミの「ペーパーレス・スタジオ」でデジタルをツールとして使うことを覚えた。現在は母校で有志の学生55人を集めTUSデジタル・スタジオを開設した。
 コロンビア大大学院の初講義でエバン・ダグラス教授は、「スクラップ工場で好きなものを拾ってこい」という指示を出した。車のミラーやドアなどをそれぞれが抱えて帰ると、「天井から吊せ」という。何のためなのかわからず、文句を言う院生もいた。その後、3次元スキャナーでデータ化し、コンピューターに取り込んだ。
 「これは院生の固定概念を壊すためだった。ドラフターで製図することが当たり前だったわれわれの目をデジタルへと向けるため、またどこかで見たような設計から脱出させるための作戦だったようだ」と廣瀬氏は振り返る。どうすれば既存の枠にとらわれない建築ができるか、前の見えない暗闇に飛び込んでいくような経験だった。
 その後、3次元モデリングツールの、「MAYA」(現在はオートデスク社が販売)を使ってFEM(有限要素法)による構造解析プラグインを独自に製作した。「自分で設計したものは構造まで責任を持ちたかった」からだ。
 コンピューターに真摯な設定を与えると、経験や先天的な発想では獲得し得ない現象が現れるという。そのような設計をするには、自分で新しいツールを開発する必要があると考えている。東京理科大で立ち上げたTUSデジタル・スタジオでも、学生にそう言い続けている。
TUSデジタル・スタジオ
 スタジオは毎週一度、大学の後援のもとで運営、ライノセラスというCADとグラスホッパープラグインで、アルゴリズミック・デザインを体験したり、アルディーノというマイコンボードでプログラミングを学ぶ実習を続けている。外部講師を呼んだ講演会も開く。目下の悩みは「月に数万円程度の活動費の工面」だそうだ。現在、活動を支援するスポンサーを募っている。
 廣瀬氏は「日本はコンピューティショナル・デザインについて、まだ発展途上だ。しかしデジタルツールの開発では十分世界を相手にできる」と、スタジオの将来を描く。
 昨年、福島県で、コンピューティショナル・デザインの概念を取り入れた事務所兼住宅「Squared Cloud」を設計した。この作品は一見、感性でデザインしたと感じさせる外観だが、使う人の動線を緻密にコンピューターでシミュレートしたものだ。居室やキッチンなどを泡に見立て、寝殿造りの計画に合わせるようにバブルを生成した。施工は常磐開発が担当した。
 この住宅は「2012年JID賞ビエンナーレ インテリア スペース賞」を受賞した。住宅での受賞は異例だ。
 「何か同じものに頼る設計手法でなく、新しいツールが加われば未来はおもしろくなる」と話す。

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