2013/08/12

【建設論評】「ミンチ解体」を考え直す 解体用つかみ機規制

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1975(昭和50)年ごろのこと。木造住宅の解体現場で釘の踏み抜きへの注意に老練な解体職人の頭(かしら)は「解体職人は、釘の先が地下足袋の底にわずかに感じたとき足を上げる。だから踏み抜かない」と言った。ベテラン解体職人の足の裏には鋭敏なセンサーがある。頭の言う技の裏には、職人の踏み抜きに対する細心の注意は無論のこと、踏み抜きを発生させない解体から発生材の整理・搬出に至る解体技術への誇りと信頼があった。その誇りは、単に踏み抜きを防ぐだけではなく仕事の「段取り」への一貫した配慮があり、「段取り八分仕事二分」の言葉を職人は非常に大切にした。
 当時の木造解体作業は、現在のように建設重機でつかみ、つぶすように壊すのではなく、内装をすべて撤去した後、新築時と逆の順序で屋根から順にていねいに解体し発生材はほとんど再利用した。だから、羽目板は1枚ずつていねいにはがし、釘を抜いて同じ寸法の材料ごとに束ねた。解体現場の場内は整理整頓が行き届いていた。木材は無論のこと畳、建具から便器に至るまで再利用のルートが確保されていた。現代でも古民家や寺社の修理、移築では同様の工法で行われている。
 再利用のルートがあったのは、すべての材料が再利用可能なものでできていたからだ。
 現在はどうか。重機で叩き踏みつぶす工法は、「ミンチ解体」などとさげすんだ言葉で呼ばれる。発生材は石膏ボードやプラスチック、金属が混じった複合材で、木材はチップとして利用され一部の金属は回収されるが、そのほかはごみとして捨てられる。再利用を考えず、容易に大地に戻せない材料を多用した工法は、建設業の社会的責任を問うことになるのではなかろうか。
 新旧の工法の大きな違いは、旧工法には造る技術から壊す技術とそれを再利用する仕組みに一貫した流れがあり、施工者は次の利用者のことも考えて作業したことだ。新方法にはその流れがない。
 同じころのコンクリート造建設物の解体は、クレーンでつった鉄球をぶつける工法や、床を抜きブレーカーで周囲と縁を切った壁・柱を自立させ引き倒す工法によっていた。
 現在は車両系建設機械に油圧作動のアタッチメントを付けてつかみ圧砕して壊すことが主流で、解体用機械での労働災害はその約8割が解体用つかみ機での発生になっている。
 解体用機械のアタッチメントはブレーカー以外は労働安全衛生法令の対象外であったが、ことし7月1日から鉄骨切断機、コンクリート圧砕機、解体用つかみ機が法規制の対象となった。
 解体作業は市街地の中で行われるため、工事関係者だけではなく通行人等の第三者を巻き込む事故災害となりやすい。そのたびに大きく報道されてきた。今回の法令改正で、解体作業の社会的重要性を再度認識し、解体作業の安全が確保されることを願っている。
 現代の解体工事にも、かつての木造解体職人の精神を生かす方策が求められているのである。 (傘)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年8月12日

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