2013/08/04

【脱・請負】前田建設がつくばで太陽光発電事業

前田建設は、茨城県つくば市の社有地で1.99メガワットの太陽光発電事業を展開している。同社が掲げる“脱請負"の一翼を担う事業だが、単なる収益事業ではなく研究開発機能を付加しているのが特徴だ。そこには建設・運用段階でさまざまなノウハウを蓄積し、顧客にフィードバックする狙いがある。防草処理技術の比較実験、グループ会社によるプレキャスト(PCa)コンクリート基礎、IT(技術開発)を活用した建物管理システムの応用導入など、部門を越えた“オール前田"の取り組みにスポットを当てる。
◇遊休地で自社の強み

 この「つくば太陽光発電事業」では、遊休地のうち4haに計9548枚の太陽光パネルを設置している。設置工事では、モジュール架台基礎にグループ会社のフジミ工研によるPCaコンクリートブロック工法を採用した。現場での作業が大幅に軽減されたほか、「架台の据え付けにはミリ単位の精度が求められたが、スムーズに作業が進んだ」(堀川真加事業戦略室事業企画部調査役)。ことし3月から発電を開始し、「天候に恵まれたため、予想を大きく超える発電量となった」(堀川氏)と順調な滑り出しを見せている。
 太陽光発電では、敷地の雑草対策が大きな課題の1つとなる。大規模な敷地で20年もの長期間となれば、トータルの対策費用は膨れあがる。この敷地では2種類の防草シートを採用しているが、「2メガ級の規模でシートを使うのは珍しい」(林昌明調達部土木グループリーダー)。初期投資はかさむものの、メンテナンスを含めた長期のライフサイクルコストを踏まえた判断だ。

精密に施工された架台

◇技術実験も

 現在、敷地の一部を活用して防草技術の比較実験を行っている。一口に防草技術といっても、除草剤の散布、防草シート、土壌固化、他の雑草の成長を防ぐイワダレ草の繁茂などさまざまなメニューがある。シートも多種多様で、それぞれ性能や使い勝手、コストに違いが出る。ここでは6種類の防草技術を比較しているが、既に草が突き破って出てきたシートもある。他ではあまり例を見ない取り組みだけに「比較実験だけを目的に遠方から訪れる見学者もいる」(林氏)という。
 一方、前田建設が独自開発した次世代建物履歴管理システム「ichroa(アイクロア)」が、発電所の効率的な管理に貢献している。本来は建物向けに開発したシステムだが、応用の裾野は広い。今回はichroaに発電量のモニタリングシステムを組み合わせて運用し、ウェブカメラを使った遠隔管理にあわせ、現地に足を運ぶことなく発電量をリアルタイムに把握できるようにした。

防草技術の比較実験

◇新たな収益元に

 ichroaの導入は「点検・修繕履歴の蓄積によって計画的な予防保全を実施し、メンテナンスコストを低減させる」(曽根巨充建築事業本部建築技術部TPM推進グループ長)という狙いが大きい。発電効率を左右する点検・修繕情報が継続的に蓄積され、関係者が共有する仕組みだ。現場レベルでは「担当者が代わった際の引き継ぎがスムーズに進む」(曽根氏)というメリットもある。一方、施設オーナーとしての立場からは「事業収支を精査する際にichroaのデータを活用できる」(堀川氏)など導入効果の裾野も広い。
 つくば太陽光発電事業は、新たなゼネコンの姿を模索する同社にとって新たな収益事業であり、ライフサイクルコストの低減や顧客提案に向けた最適解を探る実験の場でもある。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月31日


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