2013/08/08

【講演】都市をたたむ重要性指摘/藤村龍至氏が「集合知」の概念解説


 東洋大学専任講師の藤村龍至氏(藤村龍至建築設計事務所代表)は7月31日、思想家の東浩紀氏がプロデュースした東京都品川区のゲンロンカフェで「建築2.0 建築からアーキテクチャへ」と題するレクチャーを行った。



 「少子高齢化で人口が縮小する中、これまでと同じ物量の社会インフラに再投資することはできない」ため、更新するインフラを選択した「都市をたたむ」ことの重要性を指摘し、必要な空間設計の方針を示した。注目するのは、グーグル検索のように複数の人間が大量の意見表明を繰り返すことで最適化された結果が生まれる「集合知」の概念だ。
 藤村氏によれば、集合知的なあり方とは「市民からアイデアが出てくるのを待つのではなく、ある事業を提案した時に、住民がどういう反応を示したのかを見ながら、進むべき方向を定めていくこと」と説明する。
 それを利用した市民参加型の建築計画、意思決定の過程を示す例として、東洋大建築学科が取り組んだ鶴ヶ島第二小学校(埼玉県)と大宮東口プロジェクト(同)を挙げる。
 いずれも都市の再構成が必要な地域において、再編する公共施設の設計案を作成するという大学の課題としての取り組みだ。プロジェクトに当たっては「行政が進めると反発があることも、学生の口から公共施設の再編について説明することで、その問題について議論ができた」という。
 学生らは公民館機能と複合化した小学校や敷地面積約2万6000㎡の公共施設の設計案を作成して住民を招いたパブリックミーティングで発表。住民が案に対し投票、学生はその投票結果の傾向を分析し新たな設計案を作成するという手法を繰り返しながら設計案をまとめていった。
 藤村氏は「投票は対話型の世論調査であり、多数決ではない」と強調する。「多数決を行った場合、少数意見は削ぎ落とされてしまう」からだ。しかし、「投票結果を設計案の参考にとどめた場合には、それぞれの案で評価された要素を組み合わせたハイブリッドな最終案へ集約していく」と、投票と議論の集積が集合知の生成と最適化につながると強調する。また、「議論を尽くして公共施設を建設する取り組みは、市民の満足度、市民意識を高めて単体の施設の設計を超えたあり方が生まれる」とも。
 藤村氏は、市民の要望を取り入れて議論し提案を続けていると「ともすれば自然、歴史、路地などポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)型の提案に支持が集まりがち」だという。しかし、誰も反対しない「正しい」提案が必ずしも市民やその地域のためになるとは限らない。「いくら政治的に正しかったとしても、採算性が極めて悪いなどの問題も生じる」からだ。
 そのため、集合知を活用したまちづくりや設計において重要なのは「建築家が市民の集合知からポリティカル・コレクトネスな傾向を引きはがし、本当に地域と市民にとって必要なものを創り出すこと」にあると力説した。

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