2013/08/04

【ディスカッション】「せっかく土木に来たのに…」 高校向け土木系求人の少なさ

東日本高等学校土木教育研究会(会長・國馬隆史千葉県立千葉工業高校校長)が、さいたま市のホテルブリランテ武蔵野で開催した総会と研究協議会で、「せっかく土木に来たのに…」をテーマにしたパネルディスカッションを開いた=写真。昨年実施した各校アンケートで、土木を学んだ生徒の土木系企業への就職、進学が少ないことが分かったため、土木系企業への就職、進学率が高い2校の教諭から、実践していることを聞いた。パネリストからは「就職者数が少ないのは求人がないから」との指摘があったほか、求人を増やすため「現場見学会では、生徒に必ず質問をさせ、学校を企業側に認識してもらうようにしている」といった取り組みが紹介された。
 ディスカッションでは、司会を埼玉県立川越工業高校の加藤久佳校長、パネリストを秋田県立秋田工業高校の村上政基教諭、岐阜県立岐阜工業高校の簑島尚信教諭、埼玉県立熊谷工業高校の奥山新吾教諭が務めた。
 最初に奥山教諭が、昨年の総会・研究協議会(静岡大会)で実施した卒業生進路アンケートの結果を披露。「北海道(7校)地区では、土木系企業へ就職、進学をしたのは40%で、残りの60%は、土木とは関係のない企業へ就職あるいは進学をしている。
 東北(秋田工業を除く6校)では50%、関東(15校)も北海道と同様の傾向、東海(岐阜工業を除く7校)では、年によっては50%を超えたり40%程度の時がある。北信越(4校)は50%を下回っている」「埼玉県もかなり低い。土木に進む、より良い生徒を育てるのが(工業高校で土木を教える者の)使命ではないか」と現状の問題を提起。テーマを「せっかく土木に来たのに…」としたことの背景を説明した。
 次に話題として取り上げたのは、進学してもらうために、中学生に対してどのような学校説明会・体験会を実施しているかということ。村上教諭は中学3年生を対象に、9月初旬にすべての学科で体験入学を実施し、約500人が参加していること、体験学習としてトータルステーションを使って三角形の面積を出させたり、ブレーカーを使ってコンクリートを破壊することを、在校3年生が指導して実施していること、中学2年生には学校見学会で測量実習を見学させていることを紹介した。


◇復興に役立ちたい

 また、入学した1年生に、なぜ土木を選んだかという感想を聞いたところ、「実習にまじめに取り組んでいる姿がかっこよかった」「社会に役立つ」「家業の影響」「東日本大震災からの復興に役立ちたい」という回答が寄せられたという。
 簑島教諭は「2013年は定員40人に対して、受験生が57人だった」ことを示した上で、「10年前までは、誰も行きたくない学校だったが、いまは誰もが行きたがる学校になった」と述べ、そのために「レベルアップを図るように地道な努力を積み重ねてきた。また、企業や地元建設業協会に対し、学校の存在をアピールしてきた」こと、「工業高校は中学生にとって荒い、怖いといったイメージがあり、生徒や父兄に良いイメージを持ってもらう必要がある。そのため、やさしいイケメン男子生徒や女子生徒に説明をさせる。見学会には母親がついてくるので、汚い実習室はだめ。女性目線で考え、特にトイレをきれいにしている」との苦労談も。

◇企業への認知必要

 秋田工業、岐阜工業とも、他校に比べ土木系企業への就職、進学率が高い。その理由を村上教諭は「企業側から、卒業生社員を派遣して話をさせたいという申し出がある。在校生に会社の話や現場での体験談を聞かせたり、施工現場を見学させたり、DVDで工事の様子を見せたりすることで、土木という仕事のイメージを具体的に分かるようにしていく。2年生全員にインターンシップを経験させることなどを通じ、土木を身近に感じながら成長すること」が、高い就職、進学率を保っている理由だと説明。
 簑島教諭は、就職者数が少ないのは「求人が少ないから」と指摘。それに対し、「岐阜工業では、建設工学科40人の生徒のうち、2年生に進級する時、およそ半数ずつが建築と土木に分かれる。昨年、土木では19人が就職希望だったのに対し、50社から求人があった」とした上で、「(求人数は)PRを通して増えてきた。現場見学に連れて行く時は、必ず事前学習をさせる。あらかじめ聞きたいことを考えさせ、当日は必ず質問をするよう指導している。そうすると企業側は、この学校はよく勉強をしてきたと評価してくれる」。その努力が求人数の多さに結びついていると論じた。 
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年7月30日

Related Posts:

  • 【メセナアワード】大賞に建築と文化伝えるギャラリーA4 優秀賞は日本工営 企業メセナ協議会(尾崎元規理事長)は9日、芸術・文化振興による社会創造活動を顕彰する「メセナアワード2014」の選考結果を発表した。メセナ大賞には、竹中工務店東京本店1階で建築を中心とした幅広い企画を展開する、公益財団法人ギャラリーエークワッドが輝き、優秀賞には、日本ケニア友好ソンドゥ・ミリウ公共図書館で読書文化普及の支援活動を行っている日本工営などが選ばれた。  ギャラリーエークワッドは、建築を取り巻く生活文化をベースに、独自の切り口で文… Read More
  • 【大建協野球大会】奥村組、完封勝利で2年ぶり優勝!! 村中監督、宙に舞う 大阪建設業協会(蔦田守弘会長)の第60回野球大会の決勝戦が9日、大阪市此花区の舞洲運動広場・多目的グラウンドで開かれた。2年前と同じ顔合わせとなった今回は、奥村組が5対0で奥村組土木興業を下し、2年ぶり5回目の栄冠に輝いた。準決勝まで駒を進めた西日本建設業保証と不動テトラは第3位となった。最優秀選手賞には、被安打1の完封勝利でチームを優勝に導いた奥村組の石橋宏章投手が選ばれた。  決勝戦では初回、奥村組が4番中尾隆一選手の右翼前適時打で先… Read More
  • 【バウハウス直系】日本真珠会館を知っていますか? JIA兵庫が保存要望 日本建築家協会近畿支部兵庫地域会(JIA兵庫、長尾健地域会長)と兵庫県建築設計監理協会(瀬戸本淳会長)は6日、神戸市中央区のフォアベルクホールで兵庫建築セミナー2014「日本真珠会館を知っていますか?」を開いた。会員ら約100人が参加し、神戸が誇る近代建築の知られざる価値に触れた。  冒頭、長尾地域会長は「建て替えの計画などが上がっているが、その是非以前にこのビルのすばらしさを知ってもらいたいと思い企画した」とあいさつした。 光安義博氏… Read More
  • 【あかりコンペ】面白い照明めざした! 最優秀賞は萬代氏の「光る空気のかたまり」 日本建築家協会(JIA)と大光電機(前芝辰二社長)は9月27日、JIA建築家大会2014岡山に合わせて第8回建築家のあかりコンペを開き、最優秀賞に萬代基介氏(萬代基介建築設計事務所)の「光る空気のかたまり」を選考した。  「光る空気のかたまり」は熱可塑性エラストマーを球体状にふくらませた照明器具で、薄く柔らかに伸び縮みする素材で室内を淡く照らし出す。萬代氏は「日常の設計活動の合間を利用して設計した。照明内部の光源をどう隠すかを検討し、その… Read More
  • 【新国立競技場】槇、内藤、青井氏らが参加した建築学会シンポが開かれる 日本建築学会は1日、シンポジウム「新国立競技場の議論から東京を考える」を東京都港区の建築会館で開いた。多角的な視点から議論を展開するため、建築家の槇文彦氏と内藤廣氏、建築史家の青井哲人氏、建築家でインテリアデザイナーの浅子佳英氏ら、新国立競技場への立場を異にする識者が登壇し、これまでに提起された新国立競技場が抱える問題を議論した。  槇氏はプログラムの内容、建設・修繕コスト、機能性などの点からザハ・ハディド案の抱える問題点を分析した。「(計… Read More

0 コメント :

コメントを投稿