2013/08/22

【デジタルデザイン】コロンビア大・スタジオXが多軸レーザー使った「五軸庵プロジェクト」

米国・コロンビア大大学院建築学部の日本研究拠点「Studio X Tokyo(スタジオX)」は、福島県いわき市のシオヤ産業(小野行彦社長)の導入した多軸レーザー加工機を使って、コンピューティショナル・デザインの実大建築ワークショップを行った。このプロジェクトに参加したのは、スタジオXの代表で建築家の廣瀬大祐氏を始め、東京理科大デジタルスタジオのメンバー、中国、英国からのインターンら多国籍なメンバーたち。今回挑戦した「五軸庵プロジェクト」は、デジタルデザインを駆使して設計した3次元データを基に、堅ろうな鉄パイプをコンピューター制御で切り出し、溶接なしで鉄材を茶室として組み上げることを目指した。現地で密着取材した。

 五軸庵プロジェクトは、多軸レーザー加工機を使い、丸パイプ型の鋼材を有機形状に切断、それを組み上げて茶室スケールの構造体を作成する。
 部材同士の接続は、ボルトや溶接を一切使わず、ジョイント形状を工夫してはめ込みだけで組み立てや解体ができることを目指した。

◇スクリプトで接続部設計


 スタジオXでは、設計に3次元モデリングCAD「Rhinoceros」と、形状生成プラグイン「grasshopper」を使って全体形状をデザインした。
 特筆すべきは、3次元の鋼材ジョイントの設計に、「Rhino Python Script」というスクリプトを利用して、パイプ材同士のジョイントを自動生成でモデリングしている点だ。形状決定プロセスをスクリプトとして記述すれば、単純なカーブラインを複雑な形状でモデリングできる。
 コンピューター上で厚みまで考慮したパイプを重ねると、安定したジョイント形状を自動的にスクリプトが計算する。今回は、4種類のジョイントを使用している。
 設計したジョイントは、事前に卓上型の3Dプリンターで出力してスタディーを行い、データの整合性を入念に確かめた。

3Dプリンタで出力したスタディーモデル

◇多軸レーザー加工機


 ワークショップの会場で、多軸レーザー加工機を提供したシオヤ産業は、いわき市小名浜の建築資材会社だ。福島第一原発などへの資材調達も行っているという。多軸レーザーカッターも、8月にようやく引き渡しが済んだばかりだ。
 同社の小野社長は、「多軸レーザー加工機は、これまで熟練の職人が手作業で行っていた工程を実現できる技術」と話す。
 例えば、パイプ同士を斜めに接合する場合、これまでは熟練の職人がパイプに紙を貼ってケガキ、厚みを考慮しながら少しずつ切っていた。さらにグラインダーをかけながらの加工となる。
 多軸レーザーならば、CAD上で作成した部材設計に基づき、自動的に加工が完了する。小野社長は「熟練の職人が減っているなか、先端的な技術でこうした部分を補っていきたい。また多軸レーザー加工機は、自社の仕事に生かす以外にも、創造的な建築に使っていきたい」と考えている。
 シオヤ産業が保有する多軸レーザー加工機は、「3D FABRI GEAR 400 MkII」(ヤマザキマザック製)というものだ。同社はこれまでにも、2次元のレーザー加工機は導入していた。2次元加工機は、X軸とY軸の2方向だけに垂直レーザーが動き、板状の鋼材を2次元図面に従って部材をカットする。ベニヤ板や鉄板、アクリル板などにも使えるが、部材の厚みに対するテーパー加工などはできない。
 対して多軸レーザー加工機は、出力ノズルがX、Y、Z、U、V方向に自在に動く。そのためH、I形鋼や丸形、角形パイプなどに対して、孔を斜めにカットしたり、トラス構造で使うような複雑な仕口を加工することも可能だ。




多軸カッターと切断した丸パイプ

◇五軸庵プロジェクト


 5日、いわき入りしたプロジェクトメンバーは、まずシオヤ産業からレーザー加工機についてのレクチャーを受けた。同社の会議室の一室を借り受け、持参したパソコンで設計データを加工する。
 レーザー加工機のコントロールパネルは複雑だ。また3次元設計データは、加工機に入力する前に、加工機の動きを完全に再現するシミュレーターを使って、レーザーノズルが図面どおりに切るか確認しなければならない。加工について、何度もシオヤ産業のオペレーターと打ち合わせを続けた。
 プロジェクトは、茶室の構築に加えて、2次元加工機を使ったアルゴリズミックデザインのフェンス製作とH形鋼から家具となる椅子を直接切り出す試みも行われた。
 フェンスは、数枚の鉄板から枝のような形をした材料をたくさん切り出し、ボルトとナットで材料をつなげて3次元形状のフェンスを作り上げる。
 椅子は、1つのH形鋼から多軸レーザーで構造体を削り出すように切り、背あてと座面を取り付ける。プロジェクトは3つのチームに分かれて5日間にわたって作業を続けた。
日本、中国、英国のチームでフェンスを製作


◇トラブルが多発

 メーンとなる茶室チームは、丸パイプ14本を14のジョイントでつなぎ、茶室内部は2次元加工機で4畳半の畳に模して切り出した鉄板を敷いて完成させた。
 完成までには、多くのトラブルが起きた。加工機に自分たちで作成した3次元設計データを入力しても、なぜかエラーが起きて切り出しが停止したり、シミュレーターでうまくいったデータが、加工機では受け付けないことも起きた。
 また切り出したジョイントが、3Dプリンターで出力したスタディーどおりにはまらないこともあった。
 廣瀬代表は「初めての機器では、どうしても思いどおりに動かないことがある。スタジオではこれまで、3Dプリンターや2次元レーザーカッターを導入したことがあるが、始めは多くの不具合を経験する。こうした不具合を克服していくと、ある時からすべてがうまく動き出す瞬間に出会える」と話す。
 また「今回のプロジェクトは第1段階。今後、秋口から来春にかけて、同じようなプロジェクトを展開するつもりだ。そのときスタジオXは、多軸加工機を使い倒したい」と意気込んでいる。
多軸カッターでの加工

パイプを人力で建て込む

◇そして完成

 8日、5日間に及ぶワークショップは終了し、シオヤ産業敷地の西側にある草地に「五軸庵」は完成した。プロジェクトメンバーと、シオヤ産業の従業員らが、茶道の先生を呼んで野点(のだて)を行った。鋼管と鋼板だけでつくられたスチール100%の建築が見事に役割を果たした。
 4kWもの出力を持つ多軸レーザー加工機は、まだ日本に数台しかない。「これほどの素晴らしい機械をもっと創造的なものにしていきたい」と廣瀬氏はアピールする。
 小野社長は「いわきは現在復興中。会社としても技術の差別化を図るために加工機を導入したが、こうした取り組みに生かしてもらえれば、社員の刺激にもなる」とした。
 汗まみれになりながらプロジェクトに体当たりしたメンバーたちも、「また小名浜に来るぞ」と意気盛んだ。

◇五軸庵プロジェクトメンバー(敬称略)

 ▽廣瀬大祐=建築家、スタジオマスター▽工藤国雄=建築家、コロンビア大准教授▽奥井竜太=プロジェクトリーダー、東京理科大修士課程2年▽後藤洋子=(同)▽木村一心=東京理科大、同大デジタルスタジオリーダー▽西村明洋=同大OB▽木村友美=同大2年生▽永井智裕=横浜国大修士2年▽ヤン・チュンチュン=コロンビア大出身▽アーノルド・ペイジ=英国マンチェスター大2年

◇STUDIO-X TOKYO
=米国・コロンビア大大学院建築学部が、世界各地で「STUDIO-X」という研究拠点を設置し、さまざまな情報発信や意見交換を試みている。日本では、東京都港区のShibaura Houseに「STUDIO-X  TOKYO」を設置、プログラミングなど先端的な手法を建築に取り込む試みを展開している。

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