2013/08/02

【現場最前線】熟練技能が魅せる! 姫路城の大天守保存修理工事

白鷺城と呼ばれ日本で最も美しい城とされる姫路城で、全体工期69カ月に及ぶ大天守保存修理事業が進められている。着工後、細心の注意を払いながら素屋根の建設、屋根と壁面の修理などの作業が順調に進められ、既に工事全体の進捗率は70%に到達した。今後、素屋根の解体に取り掛かり、来夏には装いも新たに姫路城お目見えする。2015年3月にすべてが完成する。設計・監理は文化財建造物保存技術協会、施工は鹿島・神崎組・立建設JVが担当している。

◇8万枚超の瓦を葺き替え


塗り替えた目地漆喰
姫路城の維持・保全について姫路市は、50年ごとの修理で対応している。前回の昭和の大修理(1964年完了)が大天守をほぼ解体・組み直す大規模な工事となったため、今回は補強や化粧直しといった意味合いが強く、屋根の葺(ふ)き替えと壁面の漆喰(しっくい)の塗り替えが主な内容となる。
 屋根については昭和の大修理で新しくしたため「構造体への負担を考えると、今回は葺き替えるべきではなかった」(姫路市産業局城周辺整備室)が、近年は台風が大型化し、04年に瓦の一部が飛ばされ、目地漆喰の脱落や瓦の留め具の密度がまばらな部分が見られたことなどを考慮した。8万枚以上ある瓦をいったんすべて取り外し、新たな土居葺きの上に瓦桟を組み、改めて瓦葺きをした。
 複雑な構造を持つ姫路城の場合、素屋根をかけるだけでも大変な難工事となる。西小天守が近接しているため、素屋根の柱の位置が限られ、3t以下の部材でないと重機で吊れないといったさまざまな制約があった。梁を西小天守の軒先10cm程度の場所に降ろさなければならない場面もあり、細心の注意と高い精度が求められたが、事前にコンピューター・グラフィックスを制作して入念に組み立てのシミュレーションをするなどの努力により、無事に素屋根を完成させている。

◇左官の腕の見せ所


工事全景

左官職人が精魂込めてつくりあげた「懸魚」
屋根と壁面の工事は、職人の腕に大きく左右される部分だ。なかでも「懸魚(けぎょ)」と呼ばれる屋根の妻飾りは左官職人の腕の見せどころで、イスルギの職人が金沢市から駆け付けて作業に当たった。
 屋根は取り外した約8万枚の瓦をすべてチェックし選別・洗浄。不良瓦と2階屋根の部分的な形状変更によって交換したものを合わせて、今回は「全体の2割程度を新調した」という。
 鯱(しゃちほこ)瓦も今回新たに製作したが、巨大なものは製作過程で大きく縮むため、それを計算しながらの作業となった。
 漆喰の塗り替え量は、屋根の目地が約2090㎡、壁面が約5400㎡。カビを防止するために「レッカノン」を塗布している。
 このほか、新耐震基準への適合を念頭に置いた部分的な構造補強も行っており、本体工事の進捗率は屋根と構造補強が100%、左官が80%以上となっている。

◇15年3月に全体完成


大天守と西小天守
14年からはいよいよ素屋根の解体が始まり、5、6月に大天守の上部が顔を出し、8月にはほぼ全容が見えるようになる。その後、仮設構台や仮設通路などの解体を進め、15年3月に全体完成させる予定だ。
 世界文化遺産で国宝でもある姫路城での工事は、高い精度と慎重さが要求され、火気厳禁のため溶接などの作業が制限される。これからもまだ素屋根の解体という大仕事が残っており「建設より大変な作業になるのでは」(同整備室)と、最後まで気の抜けない日々が続く。
 また、素屋根内に設置された見学施設「天空の白鷺」は大天守の屋根を間近で見ることができる絶好の機会となるため、11年3月下旬のオープンから延べ約130万人以上が訪れている。同施設は14年1月15日で閉館する予定で、これからはさらなる人出が期待されるところだ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年8月2日

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