2012/08/05

海外のBIM最前線! 豪州・アーキテクタス社の場合

シドニーのブライ通りに建設されたオフィスビル
「数年後にオーストラリアでは設計者の大半がBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使っているだろう」。同国を代表する組織設計事務所のアーキテクタス社でアソシエート・ディレクターを務める建築家のロッド・ペリー氏は、そう強調する。背景には、サスティナブルデザインへの要求拡大がある。日本国内では生産合理化の手法として注目されているBIMだが、海外では「環境性能を把握する重要な手段」になっている。

同社ではこれまでに、100以上のBIM導入例がある

◇大規模プロジェクトでは導入必死に

 同社がBIMを導入したのは9年前。現在までに100件を超える建築プロジェクトに採用した。愛用するのはオートデスクのBIMソフト『Revit Architecture』だ。「当初は作業効率の向上を目的に導入を決めたが、環境配慮の要求が高まるにつれ、BIMをフル活用した解析が不可欠になっている」と明かす。
 地元オーストラリアでは近年、設計事務所の大半が「BIMを意識し始めた」と説明するように、大型プロジェクトを中心にBIMの導入事例が目立っている。建設会社でもプロジェクトの試行導入に踏み切る動きがあり、BIMが加速的に広がり始めている。「おそらく5年後には5000万豪ドル(40億円強)を超えるような大規模プロジェクトではBIM導入が条件になる可能性がある」

◇施主の環境意識が牽引

 普及をけん引しているのは「施主」だ。環境配慮に対する施主の意識は一気に高まり、オフィスビルオーナーの多くは国の環境性能評価「グリーン・スター制度」を意識し、特にランドマークとなるような大規模建築には高い環境性能が求められる。「豪政府はビルの環境性能基準を厳密に定めており、新規の建築プロジェクトでは環境配慮が建築の許可になっていることが追い風だ」
 CO2排出量の多い企業に税金を課す炭素価格制度(炭素税)の導入も具体化に向けて動き出し、建築ストックのエネルギー効率を監査する制度もスタートした。対象となるのは企業規模で500社程度に達すると見られ、構想発表時の試算では排出量1t当たり23豪ドル(約2000円)程度を課税する見通しも示されていた。5年前に制度化された環境性能評価は、建築物のエネルギー効率、太陽熱利用、断熱性能などを総合的に判断する指標として定着している。

◇環境性能にBIMは必須

 シドニーのブライ通り1番地に建設された高さ135mのオフィスビルは、オーストラリアの超高層建築物として初めて最高レベルの「六つ星」環境性能を取得した。「当社が手掛けた代表的な環境建築の1つだ」。社内ではオフィスの設計に際し、最低でも四つ星以上の環境性能を確保する規定を設定。集合住宅も地域によって環境性能基準が設定され、それに準拠した設計が求められている。
 こうしたサスティナブルデザインの要求拡大によって、施主との合意形成にも変化の兆しが出てきた。BIMを使うことで建物内の熱分布は詳細にシミュレートでき、デザインを行いながら環境性能を確認できるため、設計変更も迅速に行える。「環境とBIMは切っても切れない関係性になっている。BIMは施主、そして政府からの要求を満たす手段であり、裏返せば設計者にはBIMを導入せざる得ない状況が迫っている。それはオーストラリアだけではなく、日本も例外でないはずだ」
 アーキテクタス社: 本社はシドニー。社員数は約250人。アジアには上海に連絡事務所を置いている。オーストラリア建築家協会を始め建築関連団体などから100以上の建築賞を獲得。同国ではBIMに精通した設計事務所としても知られている。

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