2012/08/26

著者に聞く 『エコハウスのウソ』前真之東大准教授

前 教授
「夏旨、冬旨のどちらかと言われたら、『冬旨』の住宅をつくる方がいい。最終的な目標は無暖房無冷房の住宅だが、当面は無暖房を重視したい」。エアコンなしの「夏を旨とすべし(夏旨)」の家が、究極の省エネ住宅のようにもてはやされる昨今だが、環境工学の専門家である著者の前真之東大准教授は、「空間表現の一環ではないかと勘ぐられるような、通風を視覚化しただけの『夏旨』を喧伝する住宅が目立つ。現場に行くと教科書にはない『ウソ』がわかってきた」と言う。著書は28テーマを物理の原則に照らして楽しく解説している。


前氏は、空調、通風、給湯、自然光利用など幅広い観点から真のエコハウスを探り続けている。研究を始めた15年ほど前は、教科書どおりに素直に受け止めていたが、やがて疑問が大きくなったという。
 「北海道・東北あたりでは冬のことを考えているが、関東まで南下して温暖になると、開けっぴろげで通風を重視した『夏だけを旨』とする住宅が多い。ところが実際に行って温度や通風を実測しているうちに、間仕切りがなく見た目にはいかにも風が通りそうな空間でも、本当に風が通るのか疑わしいものがけっこう出てきた。立地条件がよほど良くないと通風だけに頼るのは難しい」
 前氏も本当のエコハウスがどういうものか、答えが全てわかっているわけではないが、「おかしいというのは明らかになってきた」と話す。「『夏旨』だからエアコンは不要などとアピールしていても、高温多湿の日本では『次善の策』としてエアコンが機能しやすい空間にするべきだ。通風ばかりを重視した間仕切りのない空間だと、小さなエアコンで控えめな冷房にすることができなくなる」
 人間は暑さに強い動物だが、冷房なしでは熱中症の危険を伴うことを指摘する。家庭用の冷房が電力ピークに過大な影響は与えていないこともデータで示している。
 なぜ「冬を旨」とするべきなのか。
 「夏偏重の空間設計が、冬への備えをおろそかにしている。冬は1枚羽織ればいいと言わんばかりだが、特に吹抜け空間は冬に暖房することが難しい。常夏のアフリカで進化した人間は、夏には強いが冬には弱い。冬がかなり冷え込む日本では、冬の備えが何より重要なのは明白。エネルギーの面から見ても、暖房の方が冷房よりもずっと消費量が多い」と指摘する。
 「住宅が密に建て込む現状の住宅地では、無冷房はかなり難しい。夜の冷え込みをうまく使うなど工夫を凝らす必要がある。無暖房は冬でも日射は強いわけだから、より可能性は高いと思う」

◇簡潔にウソを暴く

 【内容】「住まいは夏を旨とすべし?」など28のテーマ(質問)に答える格好で本書は構成される。質問のすぐ下に答えが簡潔に書かれていて、その後に、詳しい内容を解説している。このため、Q&Aだけを読んでもエコハウスのウソが一通りわかる。著者の前氏は少しでも多くの人に読んでもらえるよう、エンターテインメントを考えたという。本当のエコハウスが普及しなければ意味がないからだ。28テーマのうち27テーマが、エコハウスの「常識」のように語られているが、実はすべて「ウソ」と断言。著者は物理の原則に照らしただけと言うが、「なるほど」と唸ってしまう。

『エコハウスのウソ』 AmazonLink

Related Posts:

  • 【3・11】東北地整の「災害初動期指揮心得」が電子書籍で無料ダウンロード可能に 「3・11」での過酷な災害対応をもとに国土交通省東北地方整備局がまとめた「東日本大震災の実体験に基づく、災害初動期指揮心得」がKindle版の電子書籍として世界中に発信される。通信販売サイトのAmazonの協力で9日から配信を開始。対象の各国において無料でダウンロード、閲覧できるようになる。国交省における「危機管理の教訓」が“生きた教材”として世界に広がることになりそうだ。  災害初動期指揮心得は、東日本大震災の実体験に基づいてまとめられ… Read More
  • 【全建協連】好活動事例紹介のパンフ第2弾!「除雪道路維持補修」と「情報共有システム」 全国建設業協同組合連合会(青柳剛会長)は、会員組合による好活動事例の水平展開の第2弾として、『除雪・道路維持等補修管理業務』『情報共有システム』のパンフレットを作成した=写真。2月下旬には、第3弾として『これから取り組むBIMとCIM』のパンフレットを作成し、第1弾の『残土受入・整備事業』のパンフレット2冊とあわせて計5冊を会員組合所属企業に配布する。  『除雪・道路維持等補修管理業務』のパンフレットは、宮下地区建設業協同組合(福島県三島… Read More
  • 【創刊】近畿冷凍空調工業会の技術情報誌『近冷工 これからの技術情報』  近畿冷凍空調工業会(木村惠一理事長)は、『近冷工 これからの技術情報』を創刊した。業界の動向や最新の技術などを紹介する内容となっており、今後年2回のペースで発行する。会員に無料で送付するほか、希望者には販売する(定価・税込み1080円)。  設備業界では温暖化防止対策や冷媒漏えい防止の技能向上・回収破壊の強化への取り組みを求められるようになってきており、同工業会がより結束して有効的な手段を打ち出すために、内外の情報を集約して情報誌として発信… Read More
  • 【震災記録誌】第3弾『地域のために地域とともに』発行 フォーラムも3月16日開催 宮城建協 宮城県建設業協会(佐藤博俊会長)は、東日本大震災記録誌の第3弾となる『宮城県建設業協会の闘い3-地域のために地域とともに』を発行した=写真。被災地の街づくりが本格化し、災害公営住宅の建設もピークを迎える中、学校や住宅の施工などを手掛けた技術者の声を紹介。学校長や自治会長、首長ら第三者のインタビューも交え、復興への歩みと地域建設業の活躍をまとめた。  第3弾記録誌は2000部作成し、県内の図書館や学校、自治体などに配布するとともに、近く… Read More
  • 【オリコンサル】情熱とやりがい見せる! 作品集「LEGACY-未来につながるインフラ-」発刊  オリエンタルコンサルタンツは、同社が計画・設計したインフラ施設を掲載した作品集「LEGACY-未来につながるインフラ-」を発刊した=写真。初回は「橋梁」をテーマに、近年完成した代表的な橋梁をピックアップ、2013年度土木学会田中賞を受賞した「霞橋」や、同学会の「ブリッジコンテスト」で受賞した作品などを掲載している。野崎秀則社長は「自分たちの仕事を再確認し、新しい仲間を含めてみんなで共有できれば良いと思っている」と話している。  作品集… Read More

0 コメント :

コメントを投稿