2012/08/23

スタジオ・ムンバイ展「Praxis」 名古屋大准教授 脇坂圭一の展覧会見聞録

TOTOギャラリー・間で開かれている「Praxis(プラクシス)」
ビジョイ・ジェイン氏率いるスタジオ・ムンバイの展覧会「Praxis(プラクシス)」が、TOTOギャラリー・間で開かれている。ジェイン氏は1965年にインド・ムンバイで生まれ、ワシントン大学で教育を受け、米国、英国で実務についた後、95年にスタジオ・ムンバイを設立した建築家である。日本ではまだ知名度は高いとはいえないが、ヴィクトリア・アルバート博物館(2010年)やヴェネチア・ビエンナーレ(同)への出展、フランス建築協会・世界サスティナブル建築賞受賞(09年)など近年、国際的な評価が高まっている。


◇スケッチ、模型による対話

 展覧会場はしっとりとした雰囲気に包まれている。床から天井までの壁面が赤味がかった広葉樹合板で覆われ、全体の雰囲気が薄暗いトーンに仕立てられているからだ。その壁面を背景として、所狭しと設置された棚、机に模型やスケッチブック、サンプルといった品々が置かれている=写真。ここにはスタジオ・ムンバイが再現されているのだ。
 模型といっても、抽象的なボリュームスタディーのものから、原寸大モックアップまでさまざまなスケールがある。用いられる素材も木、石、プラスター、銅といった質感の高いものが多い。赤い布が張られ事務所のスタンプが押された表紙をもつスケッチブックは、さまざまな過程・縮尺のドローイングの周りにテキストが書き込まれ、臨場感にあふれている。サンプルは微妙な色味違いの床タイル、さまざまな樹種の木など、スタジオのいつもの風景として並べられている。
 一方、壁面のスクリーンには、素材を加工する音とともに日々繰り広げられる作業の様子が映し出される。その周囲にはスタディ過程のイメージが貼られ、作品のつくられる物語が落とし込まれている。
 こうした独特な展覧会風景はジェイン氏の事務所の組織形態を反映したものでもある。というのも120人ほどが働く事務所の大半が大工や石工などの職人なのだ。生活水準の格差から文字や図面を読めない職人も多い中、スケッチや模型といった具体的なものが職人との対話の道具となる。素材とディテール、そして職人や施主と徹底的に向き合い、インドという特異な環境にありながらも、実演つまりプラクシスから普遍的建築を目指すスタジオ・ムンバイ。
 私自身、かつてムンバイを含めた3週間のインドへの旅で圧倒的な格差社会を見せつけられたが、触覚・聴覚から訴える本展覧会からインドの空気感が伝わってきた。会期は9月22日まで。

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