2013/03/07

【建築】「アトリエ・ビスクドール」でJIA新人賞受賞 前田圭介氏に聞く

アトリエ・ビスクドール外観 撮影:上田宏
宙に浮いた帯状の腰壁など、内と外をつなぐ工夫を施した「アトリエ・ビスクドール」で第24回JIA新人賞を受賞した前田圭介氏(UID一級建築士事務所)。4回目の挑戦での受賞に「建築の価値を認めてもらい、これからの励みになる。この受賞によって、地元(広島県福山市)にも建築家の職能が浸透していけばうれしい」と喜びを表現する。

◇普通の住宅街

 人形作家である夫人のアトリエと夫婦の住宅である受賞作は、大阪府箕面市のごく普通の住宅街に建つ。当初は、プライバシーを考慮して中庭のあるコートハウスを提案したが、設計が進むにつれて違和感を感じ始めた。「条例で敷地内に緑は確保されているものの、最初の案では塀で囲まれ窮屈に感じた。建築は敷地の中だけで完結せず、道路や環境に対して接続していくべき」と考え直し、計画のストップも覚悟の上で、コートハウスを反転させたような開かれたプランを提案した。
 建物の配置に工夫を凝らすことで近隣住宅の庭を借景に取り込み、周囲に開くことはもちろん、敷地以上の広さを感じられる空間を実現した。「見えない境界にとらわれず、領域を広く確保することは自然な考え方だと思う。敷地の内側だけでやっていたことを、もう少し広い視点でとらえれば、まちの風景は広がる。それをあえてまちなかでやることに意義があった」と振り返る。


アトリエ・ビスクドール内観 撮影:上田宏
◇閉じながら開く空間

 計画開始からずいぶん時間が経ってからの変更案に施主も最初はとまどったが、模型を渡して1週間考えてもらった結果、新しい案に納得してもらえた。建物外側の必要なところにだけ3層の帯を組み合わせて囲むことで、閉じながら開く空間を実現させ、施主が不安に感じていたプライバシーの問題も解決した。
 内部からの視点だけでなく、外部からの反応にも変化があった。建設地はコミュニティーとしての結びつきがそれほど強くない場所であり、工事開始当初は「何が建つのか?」と近隣からの視線は厳しかったという。しかし、ある時期にそれが一変する。
 「植栽が入った途端、近隣の方がわざわざやって来て『いいわね』と言ってくれた。浮かせた腰壁の下から見える植栽を見て、好意的にとらえてくれたのだと思う。もし、同じ植栽であっても、塀が地面から立ち上がっていれば声はかけてくれなかったはず」。ランドスケープの担当者が四季を楽しめる植物を選び、白い壁とのコントラストで敷地の外側からも楽しめる場所となったことで敷地はまちと一体化した。


前田圭介氏
◇境界を薄める

 「設計者としては地域の人が集まる場所になればいいと思っている。そういうことは、関係が溶け出すところから始まるのではないか」と感じている。
 境界を薄めようとする考え方の原点は、大学卒業後、工務店での5年間の現場監督経験にある。「建築も土木も、言葉では領域を分けているが実際の境目はグレーであり、昔は一つだったものが時代とともに領域が細分化されただけ。すべてを一体でやる現場を経験した者としては、建築だけをとらえることに違和感がある」と、建築、土木、ランドスケープなどの分野を一つのものとしてとらえた上で「建築は、建物ではなく環境をつくることだ」と言い切る。

◇新しい日本建築へ

 地方都市である福山に拠点を構えるが、「建築が環境をつくるという考えは瀬戸内の風土だけに限ったことではなく、東京もアジアもほぼ同じ。欧州のように外に対してプロテクトするのではなく、自然に寄り添って生活してきた地域だからこそ、外に寄り添いながら建築をつくりたい」と自らの立ち位置を確認する。
 さらに「新しい日本建築をつくりたい」と視線は遠くに向ける。現場監督時代から休日ごとにさまざまな日本建築を見て回り、自らの目でそれらの建築の本質を確認してきた。
 「自分が成長し、変化することで新たな建築のスタイルができるのではないかと考えている。軒などの特徴だけで語られる日本建築ではなく、現代に合った進化した日本建築ができるはず。さまざまな領域に身を置くことで、体験を建築にフィードバックしたい」。感覚を磨きながら、現場で培った目に見える具象の要素も忘れずに建築の新たな価値を追求する。

 (まえだ・けいすけ)1998年国士舘大工学部建築学科卒後、工務店勤務を経て2003年UID一級建築士事務所設立。広島県出身。74年生まれ。

建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年3月7日

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