2014/03/16

【建築】専門家同士のコラボが生み出す相乗作用はあるか

『実践学園中学・高等学校自由学習館』
住宅街の狭い敷地で自然を生かした空間作りを達成した点などが評価された。
古谷誠章氏、八木佐千子氏(ナスカ)が設計した『実践学園中学・高等学校自由学習館』が2013年度の日本建築大賞に選ばれた。日本建築家協会(JIA)が2月に開いた公開審査会では、周辺環境との調和が高く評価される一方、古谷氏と青山学院大の苅宿俊文教授が取り組んできたコミュニケーション・デザイン教育の共同研究が設計の端緒となっている点の評価を巡り審査員の議論が白熱した。建築家を含めた専門家同士が連携する意味、そして建築に込めた思いについて、古谷氏に聞いた。
 コミュニケーション・デザイン教育とは、教師が一方的に教えるのではなく生徒同士のワークショップなどを通じて自主的な学習を促す取り組みで『実践学園中学・高等学校自由学習館』はそれを実現する場として計画された。
 「学校という空間を機能的な側面でとらえるのではなく、生徒や教職員が1日の長い時間を過ごす生活の場として考えた」と古谷氏。苅宿教授との共同研究では、学校を授業をするための空間として考えるのではなく、授業中も授業外の時間も内包した空間づくりを考えたという。
館内のどこからでも視線の先に隣接する公園の緑が見えるよう配慮されている。

 その成果である自由学習館は「生徒がそのときの心情で自分の好きな場所を選び、そこに居場所を見つけられるような工夫」が凝らされている。当初、学校側の求めた機能は図書館と自習室、小ホールの融合施設だったが「生徒が自分の居場所を見つけられるような空間の多様性と柔軟性」を確保するために内部空間は地下から3階に至る吹き抜けで一体化させた。「明確な区分のある空間ではなく流動的でそれぞれがつながり合う空間」を目指している。
 また、館内のどこからでも、視線の先に隣接する公園の緑が見えるよう配慮し、生徒にとって居心地がよく、少しでも長くとどまりたくなるような環境を実現。土日の開館を望む声も多く、現在では日曜・祝日も含めて生徒が自由に利用している。
 審査に当たっては、住宅街の狭い敷地で自然を生かした空間づくりを達成した点などが評価され建築大賞に決まった。しかし、公開審査会では「共同研究や学校の方針を形にしているだけではないか」といった指摘もあり、コンペにより設計された他の作品と接戦を繰り広げた。
 古谷氏は「建築家がゼロから革新的なアイデアを提案するコンペと比較すれば、依頼を受けて設計する建築は建築家の提案の比重は低いかもしれない」としながらも、「学校側の考える『コミュニケーション・デザインの場』というソフトウエアだけでは空間のかたちは生まれない。それにふさわしい場所、空間は建築家が提案する必要がある。教育者と建築家といった専門家同士のコラボレーションの中で、相乗的に生まれた建築を実現するのも1つの大事な設計のあり方だと思う」と強調した。
〈施設概要〉
▽名称=実践学園中学・高等学校自由学習館
▽所在=東京都中野区中央2-38
▽建築主=学校法人実践学園
▽設計・監理=NASCA(建築)、オーク構造設計(構造)、科学応用冷暖研究所(機械設備)、設備計画(電気設備)
▽施工=大成建設(建築・設備)、横山設備工業(空調・衛生)、エイコウ電設(電気)
▽敷地面積=924.54㎡
▽建築面積=529.11㎡
▽構造・階数=RC一部S造地下1階地上3階建て
▽延べ床面積=1389.38㎡
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