「開放的でありながらプライバシーを確保する」という相反する2つのニーズに答えた |
現在の事務所に独立する前には大型プロジェクトに携わる経験の多かった久明氏は「建築は設計者が表現することを目指すものではなく。むしろ個性は施主のニーズに答えた結果として生まれるもの」と強調する。大型プロジェクトの経験から、住宅の設計においても重要なのは「建築はスタイルではなくソリューションである」と力強く語る。パートナーの直子氏もまた「時間も予算もないとしても、住宅は施主が健康で豊かに暮らしてもらうのが一番重要。施主の夢を実現するための媒介が建築家であり、自分のスタイルはその夢に答えた上に出てきます」と指摘する。
『PATIO』における施主の要望とは「開放的でありながらプライバシーを確保する」という相反する2つのニーズだった。久明氏は「われわれはまず話を聞くことから始める。当然、たくさんの要望が出てくることになりますが、必ず良い解決策があると信じています」と断言する。『PATIO』においても、施主の提示した条件に答えていくために数多くの検討し、解決策を探った。その成果として『PATIO』の中庭を2階部分に設けた壁で囲み、これを浮かすことで外からの視線を遮りながらも風通しの良い開放感のある空間が実現した。
中庭を2階部分に設けた壁で囲む |
あくまで施主の意見を最大限に取り入れながら検討を重ねる設計手法にこだわるため、設計に携わった建築に共通するスタイルはないという。重要なのは「デザインをつくるのではなく、必要なものを配置していく」ことであり、施主にとってのベスト・ソリューションだ。
「設計のスタイルが確立していた方が、仕事は来やすいんですが」と直子氏は笑うが、一方で個別の要望に答えていく中で、普遍的ともいえるオーダー(秩序)が生まれてくるとも。「建築にとって変わらない本質とはなにかを追求すると、いつの時代にも変わらないものが見えてきます。建て主の要望の中にこそ、時代を受け継いできた空間に必要な共通するものがあるはず」と久明氏。
施主が抱える個別のニーズを建築の中に盛り込む過程においても、建築家の仕事は社会性を獲得すると力を込める。
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