未来の省エネ住宅はどんな姿になるのか、日本から新しい省エネ住宅を考えてほしい--東京大学、千葉大学、早稲田大学、慶応義塾大学、芝浦工業大学が、企業と協力して省エネ住宅建設に挑戦する5大学対抗コンペティション「エネマネハウス2014」が1月末、東京都江東区の東雲駐車場で開かれた。参加大学に求められたのは、アジア新興国への海外展開を見据えた、エネルギーを地産地消する住宅ネット・ゼロ・エネルギーハウスの提案だった。
◆最優秀賞・東大「CITY ECOX」/建築の力だけで環境性能確保/プロジェクトリーダー 前真之准教授
審査の結果、最優秀賞に輝いたのは東京大学コンソーシアムによる低層集合住宅の提案「CITY ECOX」だった。太陽の動きに合わせて稼働する太陽光発電パネルと昼夜の温度変化を活用し、ゼロエネルギー建築を実現している。プロジェクトリーダーの前真之准教授は「建築の力だけで環境性能を確保し、まだまだ建築そのものに力があるのだということを示したかった」と力を込める。
設計に当たっては建具や床・天井に使用した潜熱蓄熱材、高断熱4重ガラス窓などを活用し、建築の基本性能ともいえる断熱性、気密性、蓄熱性を最大限に高めた。「環境性能を確保するために、設備機器や電化製品を管理するシステムを導入する事例は多いが、そのシステムの稼働自体にもエネルギーが必要になる」と前准教授。
重視したのは、冬のゼロエネルギー建築だ。昼夜の温度変化を利用するため、表面に蓄熱材、裏面に断熱材を配した光を通す蓄熱建具を新たに設計。昼夜で建具を回転させることで暖かな室内をつくりだせる。「地球温暖化を考慮すれば、今後夏の暑さに対応するために設備機器の活用は不可欠だろう。しかし、寒さに対して建築ができることは多いはず」と分析する。
◆慶応大「慶応型共進化住宅(コエボハウス)」/木材とデジタル技術を融合/プロジェクトリーダー 池田靖史教授
木質建材とデジタル技術を融合させて、サスティナブルな木造構法を実現する住宅を提案したのは慶応義塾大学の「慶応型共進化住宅(通称・コエボハウス)」だ。
プロジェクトリーダーの池田靖史教授は「この家は1つのロボットであり、住む人のライフスタイルとともに進化する」という。
デシカント空調や太陽熱暖房、輻射式冷暖房機、家庭用燃料電池を組み合わせ、デジタル技術で最適化する。すべての機器制御はスマートフォンのアプリで簡単に調整できる。また建築素材として、日本ではほとんど使われていないCLT(直交集成板、クロス・ラミネーテッド・ティンバー)を取り入れた。
海外では14階建ての高層ビルにも使われているCLTは「強度はもとより、国産材利用促進、防火面でも優れている。建築計画の上でも柱、梁が不要。板の組み合わせで建てられ、建築後に窓や棚も作れるのがメリットだ」と池田教授は紹介する。
共進化住宅でも、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)で検証しながら部材をカットし、すべてのパネルにナンバリングして組み上げた。3次元モデリングソフトのパラメーターでパネル部材の寸法も変えられる。普及性と多様性を両立させた住宅モデルだ。
◆千葉大「ルネ・ハウス」/風と光を「見える化」/プロジェクトリーダー 川瀬貴晴教授
千葉大学の「ルネ・ハウス」の基本になるのは、プレハブ化が可能なコアとなる木造部分と集成材を使用した大架構の空間の組み合わせだ。主要構造のみをユニット化することで、内外装や設備は地域性を持たせることができる。
「住宅の原則とも言える高断熱・高気密を実現するだけでなく、通風を重視した」と、プロジェクトリーダーの川瀬貴晴教授。特に「風」については「窓を開けるだけでなく、風を効果的に取り入れる工夫を凝らした」という。床下には空間と蓄熱体を設け、外気を通すと同時にその熱や冷気をためこむ省エネ構造を採用したほか、室内には通風センサーを含む多機能センサーを設置し、風と光の「見える化」にも取り組んだ。
また、天井を高くすることで風による快適性を増幅するとともに、住宅以外の用途に活用する可能性を確保した。「長寿命建築にはフレキシビリティーが不可欠。熱効率を高めて設備への依存を減らし、内部空間を自由に活用できるようにした」と川瀬教授。
「ルネ・ハウス」は、6月に米国エネルギー省がフランスで主催するネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの国際大会「ソーラー・デカスロン・ヨーロッパ2014」に出展し、省エネ性能と快適性を競い合う予定だ。
◆芝浦工大「母の家2030」/商品としての価値高める/プロジェクトリーダー 秋元孝之教授
展示期間中の来場者からの投票で選ばれる特別賞「People’s Choice Award」を受賞したのは、芝浦工業大学の「母の家2030」だった。プロジェクトリーダーを務めた秋元孝之教授は住宅の持つ「商品としての価値」に力を注いだ。「住宅そのものを輸出しても、地域によっては受け入れられない。しかし、パッケージ化されたシステムそのものを売り出せばあらゆる文化を受け入れることができる」という。
「母の家」は、住宅が普遍的に求められる空間である寝室・水回り・台所を「環境シェルター」としてそれぞれが自立するよう設計し、それらを太陽光発電パネルや太陽熱集熱パネルを乗せた大屋根で覆う構造となっている。
「基本となるシェルターと大屋根さえ組み合わせれば、現地の気候風土に合わせて住宅をつくることができる」と秋元教授。施工も容易で、現地建材を使用すれば国外住宅市場にも対応できると力を込める。
◆早大「Nobi-Nobi HOUSE~重ね着するすまい」/住むクオリティー重視/プロジェクトリーダー 田辺新一教授
「ただゼロエネルギー建築をつくるだけでなく、それをどう魅せるかが重要。建築として面白いものをつくろうと意識した」。そう語るのは、早稲田大学の田辺新一教授。同大の「Nobi-Nobi HOUSE~重ね着するすまい」は、技術的にゼロエネルギー建築を実現するだけでなく、そこに住むクオリティーを重視した。
太陽光を熱や光といったエネルギーに変換する中央の設備コアを居住ゾーンが取り囲み、その周囲をさらにNobi-Nobiゾーンが取り囲む3層構造とした。居住ゾーンではHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)による最先端の設備管理を導入しているほか、Nobi-Nobiゾーンは季節や地域に応じたカスタマイズによって、温室や縁側としての活用を可能にした。
設計・施工にかかわった田辺研究室の加藤駿さんは「実際の施工についての知識をまったく持っていなかった。ただ、自分たちは素人だからこそ、その夢をぶつけ、今回の建築はその夢を実現できたと思う」と計画・設計・施工を振り返った。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
◆最優秀賞・東大「CITY ECOX」/建築の力だけで環境性能確保/プロジェクトリーダー 前真之准教授
審査の結果、最優秀賞に輝いたのは東京大学コンソーシアムによる低層集合住宅の提案「CITY ECOX」だった。太陽の動きに合わせて稼働する太陽光発電パネルと昼夜の温度変化を活用し、ゼロエネルギー建築を実現している。プロジェクトリーダーの前真之准教授は「建築の力だけで環境性能を確保し、まだまだ建築そのものに力があるのだということを示したかった」と力を込める。
設計に当たっては建具や床・天井に使用した潜熱蓄熱材、高断熱4重ガラス窓などを活用し、建築の基本性能ともいえる断熱性、気密性、蓄熱性を最大限に高めた。「環境性能を確保するために、設備機器や電化製品を管理するシステムを導入する事例は多いが、そのシステムの稼働自体にもエネルギーが必要になる」と前准教授。
重視したのは、冬のゼロエネルギー建築だ。昼夜の温度変化を利用するため、表面に蓄熱材、裏面に断熱材を配した光を通す蓄熱建具を新たに設計。昼夜で建具を回転させることで暖かな室内をつくりだせる。「地球温暖化を考慮すれば、今後夏の暑さに対応するために設備機器の活用は不可欠だろう。しかし、寒さに対して建築ができることは多いはず」と分析する。
◆慶応大「慶応型共進化住宅(コエボハウス)」/木材とデジタル技術を融合/プロジェクトリーダー 池田靖史教授
プロジェクトリーダーの池田靖史教授は「この家は1つのロボットであり、住む人のライフスタイルとともに進化する」という。
デシカント空調や太陽熱暖房、輻射式冷暖房機、家庭用燃料電池を組み合わせ、デジタル技術で最適化する。すべての機器制御はスマートフォンのアプリで簡単に調整できる。また建築素材として、日本ではほとんど使われていないCLT(直交集成板、クロス・ラミネーテッド・ティンバー)を取り入れた。
海外では14階建ての高層ビルにも使われているCLTは「強度はもとより、国産材利用促進、防火面でも優れている。建築計画の上でも柱、梁が不要。板の組み合わせで建てられ、建築後に窓や棚も作れるのがメリットだ」と池田教授は紹介する。
共進化住宅でも、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)で検証しながら部材をカットし、すべてのパネルにナンバリングして組み上げた。3次元モデリングソフトのパラメーターでパネル部材の寸法も変えられる。普及性と多様性を両立させた住宅モデルだ。
◆千葉大「ルネ・ハウス」/風と光を「見える化」/プロジェクトリーダー 川瀬貴晴教授
千葉大学の「ルネ・ハウス」の基本になるのは、プレハブ化が可能なコアとなる木造部分と集成材を使用した大架構の空間の組み合わせだ。主要構造のみをユニット化することで、内外装や設備は地域性を持たせることができる。
「住宅の原則とも言える高断熱・高気密を実現するだけでなく、通風を重視した」と、プロジェクトリーダーの川瀬貴晴教授。特に「風」については「窓を開けるだけでなく、風を効果的に取り入れる工夫を凝らした」という。床下には空間と蓄熱体を設け、外気を通すと同時にその熱や冷気をためこむ省エネ構造を採用したほか、室内には通風センサーを含む多機能センサーを設置し、風と光の「見える化」にも取り組んだ。
また、天井を高くすることで風による快適性を増幅するとともに、住宅以外の用途に活用する可能性を確保した。「長寿命建築にはフレキシビリティーが不可欠。熱効率を高めて設備への依存を減らし、内部空間を自由に活用できるようにした」と川瀬教授。
「ルネ・ハウス」は、6月に米国エネルギー省がフランスで主催するネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの国際大会「ソーラー・デカスロン・ヨーロッパ2014」に出展し、省エネ性能と快適性を競い合う予定だ。
◆芝浦工大「母の家2030」/商品としての価値高める/プロジェクトリーダー 秋元孝之教授
展示期間中の来場者からの投票で選ばれる特別賞「People’s Choice Award」を受賞したのは、芝浦工業大学の「母の家2030」だった。プロジェクトリーダーを務めた秋元孝之教授は住宅の持つ「商品としての価値」に力を注いだ。「住宅そのものを輸出しても、地域によっては受け入れられない。しかし、パッケージ化されたシステムそのものを売り出せばあらゆる文化を受け入れることができる」という。
「母の家」は、住宅が普遍的に求められる空間である寝室・水回り・台所を「環境シェルター」としてそれぞれが自立するよう設計し、それらを太陽光発電パネルや太陽熱集熱パネルを乗せた大屋根で覆う構造となっている。
「基本となるシェルターと大屋根さえ組み合わせれば、現地の気候風土に合わせて住宅をつくることができる」と秋元教授。施工も容易で、現地建材を使用すれば国外住宅市場にも対応できると力を込める。
◆早大「Nobi-Nobi HOUSE~重ね着するすまい」/住むクオリティー重視/プロジェクトリーダー 田辺新一教授
「ただゼロエネルギー建築をつくるだけでなく、それをどう魅せるかが重要。建築として面白いものをつくろうと意識した」。そう語るのは、早稲田大学の田辺新一教授。同大の「Nobi-Nobi HOUSE~重ね着するすまい」は、技術的にゼロエネルギー建築を実現するだけでなく、そこに住むクオリティーを重視した。
太陽光を熱や光といったエネルギーに変換する中央の設備コアを居住ゾーンが取り囲み、その周囲をさらにNobi-Nobiゾーンが取り囲む3層構造とした。居住ゾーンではHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)による最先端の設備管理を導入しているほか、Nobi-Nobiゾーンは季節や地域に応じたカスタマイズによって、温室や縁側としての活用を可能にした。
設計・施工にかかわった田辺研究室の加藤駿さんは「実際の施工についての知識をまったく持っていなかった。ただ、自分たちは素人だからこそ、その夢をぶつけ、今回の建築はその夢を実現できたと思う」と計画・設計・施工を振り返った。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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