2011/10/05

けんちくのチカラ!演ずるプロが語る・演出家の高平哲郎さん

◇テーマパークのような舞台を/円形空間から人間中心のドラマ

 演出家の高平哲郎さんが脚本と演出を手掛けた『もうひとつの竜馬伝-配役を探す8人の登場人物』。昨年11月に3日間だけ青山円形劇場で上演された。この劇場は、迫(せ)りが44区分され、舞台と客席を分けるなど自在な使い方ができるが、360度を客席が取り囲む「原型」をそのまま使った。高平さんは「円形はセットが組みにくい場合があるので『遊び方』が難しいのですが、『竜馬伝』のように、人間中心のドラマを作ることができる。知恵を出すことで、お客さんに評価されるのはうれしい。ぼくはどんなホールでも、どんなキャスティングでも、始まった途端にワクワクする『テーマパーク』のような舞台を作りたいと思っています」
 高平さんは1970年代にタモリさんと出会い、放送作家として「今夜は最高!」「笑っていいとも」などタモリさん出演の数多くの番組を手掛けてきた。最初に演出した舞台は、東京・新宿の紀伊国屋ホール。77年には名盤と言われるLP『タモリ』発売記念ショーをここで開いた。このときタモリさんのショーに加えて東京ヴォードヴィルショーと由利徹さんも参加した。これが、東京ヴォードヴィルショーの芝居を手掛けたきっかけになった。そのすぐ後には、東京・有楽町のよみうりホールで「第1回冷し中華祭り」も開催した。
 「東京ヴォードヴィルショーを演出した劇場は、建物はもうありませんが、渋谷のエピキュラス、新宿コマ裏のアシベ会館などがありましたね。アシベでは『七輪と侍』なんていうのもやって、紀伊国屋ホールで再演されました。“七人”じゃないですよ。“七輪”です(笑)。懐かしいですね。本格的な演劇ということでいえば、88年の銀座セゾン劇場での『ハロルド・ピンター・コレクション』になると思います。竹下景子さんと蟹江敬三さんが夫婦役でした」
青山の円形劇場
 「米国でも円形劇場があります。ワシントンとブロードウェイで見ましたが、どの席から見ても不自然でない、実にうまい使い方をしていて感心しました。ワシントンで見たのは、知り合いのアメリカ人が演出したマルクス・ブラザーズのショーでしたが、すり鉢状の競技場のような劇場で、使い方がまさにサーカスでした」
 青山円形劇場を使う時にはこの2つを思い浮かべるという。ただ、青山円形劇場は2002年から構成・演出の『ダウンタウン・フォーリーズ』というミュージカルを毎年上演しているが、円形のまま使ったのは番外編だけだという。
 「『ダウンタウン・フォーリーズ』は、昨年のキャストですと島田歌穂さん、香寿たつきさんの女性2人と玉野和紀さん、吉野圭吾さんの男性2人の男女4人が歌って踊るミュージカルですが、ダンスのスケッチ(コント)、歌を織り交ぜたパロディーです。劇場の使い方の基本は、半円が客席で、半円が舞台。ステージとお客さんが向かい合ういわゆるプロセニアムの一般的な形です。新しいのは、照明用のキャットウォークに生バンド6人を乗せたこと。これはぼくらが初めてやりました」
 円形をそのまま使った最初が2007年の『ダウンタウン・フォーリーズ番外編-キリング・ミー・ソフトリー』。
 「『ダウンタウン・フォーリーズ』を上演する予定だったんですが、どうしても1人出られなくなって。それで3人でオリジナルのミュージカルをやっちゃおうということになって、島健さん作曲の『キリング・ミー・ソフトリー』というミステリー・ミュージカルをやりました。客席に電話を載せたデスクを置いて、そこでも芝居をしました。舞台美術はほとんどないんですが、2000年代のぼくの舞台のほとんどの美術を担当してもらっている朝倉摂さんにお願いしました」
 昨年の『もうひとつの竜馬伝』は自分でもとてもおもしろく使うことができたという。
 「プロデューサーからキャストとして声優を使ってほしい、竜馬伝のようなものを、などの条件や要望がありまして。そこにぼくの条件も加えて、イタリアの劇作家、ルイジ・ピランデルロの『作者を探す6人の登場人物』という作品のパロディーを考えました。それで副題を『配役を探す8人の登場人物』としたんです」
 内容は、すでに出演が決まっている8人の役者から竜馬伝のキャスティングを決めるオーディションを描いたもの。
 「客席の中に演出家役の売れっ子の声優が居て、円形舞台に声優を含む8人の役者が居て、コーラスラインよろしく自己紹介をしたり、台本を読んだり即興芝居やディベートをするんです。自己紹介は、本人の実際の経歴です。履歴書を劇場の円周の壁一面にスライドで上映しました。さらに客席にはアップライトの自動ピアノも置いて、すべてガーシュインの曲で統一しました。最後の場面は、キャスティングの発表です。誰それが坂本竜馬……。そして『明日から芝居の稽古だ。よろしく』と言って終わる、まぁ粋な芝居というか(笑)」
 円形劇場は演ずる側にとっては難しく、躊躇(ちゅうちょ)してしまうことを認めるが、一方で、『もうひとつの竜馬伝』のように、セットがほとんどなくても知恵を出し、人間中心のドラマを作ることで観客の感動につながれば、それは演出家の喜びだ。
 「90年代に入って舞台の仕事が急激に増えたのですが、その経験から、芝居も含めてショーはテーマパークだと思っています。どうやって集客し、リピーターを増やすか。テーマパークである以上、始まった途端にワクワクすることが必要だと思います。現実的に使いづらいホールはありますが、ぼくらはやっぱり悪い条件でも、どうやったら芝居やショーを楽しく、感動的に見せられるかを考え続けなければならないですね」

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