2011/11/16

けんちくのチカラ・「音楽物書き」加藤浩子さん/びわ湖ホールを語る

 オペラ評論などで活躍する「音楽物書き」の加藤浩子さんは仕事柄、国内外のオペラハウスによく足を運ぶ。加藤さんが「とても好きで、たくさんの人に来てもらいたい」と言うのが大津市の「びわ湖ホール(滋賀県立芸術劇場)」だ。このホールの初代芸術監督だった指揮者・故若杉弘さんの考え方として、日本で上演されない作品を積極的に扱うことや、日本人キャストの育成に加藤さんは強く共感した。そうしたソフトの充実に加えて琵琶湖というすばらしいロケーションと音響に恵まれたハードを合わせ持つ点が特筆されるという。
 「琵琶湖の湖畔に建っているので、ロケーションがすごくよくて、中に入ってもホワイエやロビーがガラス張りですので湖が一望できるんです。非日常のリゾート気分を味わえます。こういうホールは世界的にも珍しい。皆さん、遠いという感じを持たれるかもしれませんが、京都から大津まで2駅10分くらいです。私は日帰りで行くこともありますから、そんなに遠くないんです」
 立派なホールを造って『ハコモノ』と言われるのは、中身が伴っていない場合だ。「びわ湖ホールは『器』もすばらしいけれど、中身も充実している。いまの芸術監督は指揮者の沼尻竜典氏ですが、主催公演でやはり、ポリシーのあるオペラ公演を続けている。これはとても大事なことです」
びわ湖ホール(滋賀県立芸術劇場)
 音響について改めて資料を開いて調べたらおもしろいことがわかったという。
 「たとえばいすですが、人が座っていない時でも吸音するためにぴったりとは閉じないということです。天井の反射板は専門にその調整をする人がいます。どの場所でもよく見えて、よく響きます。楽器みたいなホールですね。ステージに立った人も気持ちが良いといいます。PA(拡声装置)なしで生音をうまく響かせるのは、建築空間の仕事でしょうね」
 建築家にはこんな要望を持っている。「使い勝手を考えていないのは困ります。土地などの制約もあるのでしょうが、一般的にホワイエやロビーが狭くて休憩時間に人であふれてしまうとか、通路が狭いのもよくないですね。クラシックファンでなくてもそうしたことを幅広く知っていていただけるとありがたいですね」

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