「建築家」とは何か。建築士という国家資格の呼称とは別に存在する、この職能としての呼び名について説明できる人は一般にはほとんどいない。社会的に大きな役割を担う職能が、長きにわたって一般社会に認知されてこなかったのはなぜなのか。
専兼問題や国の不作為など、さまざまな要因が考えられるが、著者は世の中の建築物の中で圧倒的な量を占める「住宅」を無視し続けてきたことが、議論が社会的に受け入れられず、混乱を極めた原因だと指摘する。
「ここで注目するのは、明らかに建築としか呼べないものや、建築家としか呼びようもないものではなく、その周辺である」(序論)と述べているように、建築家と建築士の違いを生み出す元となった建築士法が制定された背景を、これまで語られてこなかった「住宅」というフィルターを通して解きほぐすことで、議論の原点を問い直そうと試みる。
建築士法の制定から60年余だが、本書はそれより40年も前から法律ができあがっていく過程を追う。100年のプロセスを整理したとき、建築士資格の意味や建築家の職能が、これまでの議論を超えて浮き彫りになる。
建築基本法の制定や登録建築家と専攻建築士の一本化など、現在も建築にかかわる制度の議論は続いている。1世紀かけてもつれた糸を解きほぐすには相当の時間が必要だが、UIA(国際建築家連合)2011東京大会での連帯の確認など、議論を深める機運は高まっている。
(東京大学出版会・8190円)
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