2012/02/22

日建設計に“ボランティア部”が誕生 組織事務所のリソース生かした有志の活動

部活メンバーのかたがた
 自分たちにしかできない被災地支援を--。東日本大震災の発生から1年を前に、日建設計の「ボランティア部」の活動が広がりをみせている。震災直後から、若手社員が被災地に対して何かできないかと考え、何度も現地に足を運び地域とのつながりを深めてきた。最初はとまどいもあったが、試行錯誤する中で復興に向けて役に立つアイデアが生まれ、ほかの被災地からも注目され始めた。日常業務とは切り離された活動だが、被災地との絆を原動力に、長期にわたって続けられる支援を目指す。

◇まちづくりツールも開発

 「ソリューションを生み出す知性やアイデアが問われていると思う」。設計部主管の羽鳥達也さんは、地域が建築設計者に求めているものが何かを分析する。羽鳥さんらのチームは気仙沼市でのボランティア活動を通して避難地形時間地図、通称「逃げ地図」を開発した。
 どの場所にいても、避難するまでの距離や時間が把握できるツールだが「可視化することで、効果的に避難できるルートや、どこにどのような津波避難ビルがあれば効果的なのかが分かってきた」(羽鳥さん)。ハザードマップ(災害予測地図)としてだけでなく、より安全なまちづくりのためのベースマップとしても役立てられる。

◇学生の思い引き継ぐ

 震災直後、被災地に対して何かできないかという漠然とした思いが社内に広がっていた。設計部の長尾美菜未さんは、被災地の学生を東京で受け入れた特別オープンデスクを振り返る。「故郷が大変な状況になっているにもかかわらず、東京できちんと調査を終えて帰って行った学生をみて、ここで終わってはいけないと思った」と、学生に刺激され活動を引き継ぐことを誓った。
 その後、被災地である石巻、気仙沼、釜石の地域ごとにそれぞれチームをつくり、休日に現地に出掛けるなどボランティア活動を続けた。この時点ではまだ、あくまで有志の集まりに過ぎなかった。
 「部活にすればどうか」と提案されたことを機に、ボランティア部の創設願いを会社に提出、10月に正式に認められた。
 これがターニングポイントとなる。現地に行く回数が増え始め、地元とのつながりが深くなっていく。
 フロンティア日建設計技術室の西勇さんは「現地の人と知り合ったことで、活動を続けることへのモチベーションが上がった」という。

◇幅広い視点で吸収

 石巻チームとして活動する設計部の祖父江一宏さんは「津波から逃げられるビルや空間など、安心かつにぎわいを創出するまちに必要な空間づくりのアイデアを継続して考えている」と、地道な取り組みを続ける。気仙沼の「逃げ地図」や石巻の津波避難ビルの取り組みは、他地域の復興まちづくりに役立てられ、地域を超えたつながりも見せ始めた。
 石巻、気仙沼、釜石の3チームのほか「非建築系インタビューチーム」も立ち上げた。建築からの視点にとらわれず、さまざまな分野の専門家からアイデアを吸収する狙いがある。
 ボランティア部の活動内容は、東日本大震災の被災地支援に限らない。全国組織として、どこの拠点に所属していても参加できる全方向の活動を心掛けている。現在、部員は50-60人。さらに増やして大きなつながりをつくり、「次にどこで災害が起こっても、すぐに動けるように準備しておく」(西さん)考えだ。
 「逃げ地図」のパネルやシミュレーション動画は、東京都新宿区のリビングデザインセンターOZONEに3月22日から4月3日まで展示される。

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1 件のコメント :

  1. 山田町の居てるだけ個人ボランティアに入っていたタメちゃんと申します。
     山田町の現状を見つめていますと善くも悪しくもボスシステムです。
     ボスに恵まれると福利厚生が行き届くし、ボスに恵まれないとただ空を見上げて何か落ちてこないかと、ひたすら待っているだけの暮らしになる。
     これは地域文化と考えると、リーダーをはぐくむ事が長期展望の一つとなると考え、逆境にある子どもたちに未来のリーダーをはぐくめる親になってもらうような取り組みは考えられないかと模索していたところ、セーブザチルドレンと日建設計ボランティアプロジェクトが、山田町の町中に子どもが集える場をこの春にオープンさせるべく取り組んでいるとの事。
     子どもにとって、本気で生きている大人がすぐそばに居るかと言う事が一番大切な環境。
     ご本人たちは気づいておられるかどうかは解りませんが、あなたたちと居ると素直になれるし自分たちの可能性を信じられるし、あなたたちの醸し出す空気感、存在そのものが、子どもたちをはぐくむものだと確信します。びりょくながらお手伝いできれば幸せです。            爲公史 拝

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