2012/02/16

JIA建築大賞の「ホキ美術館」 日建設計の方々にインタビューしました

ホキ美術館 撮影:野田東徳(雁光舎)
 日本建築家協会(JIA)の2011年度日本建築大賞に「ホキ美術館」(千葉市緑区)が選ばれた。5日の公開審査では「建築で絵画をうまく包み込んでいる」(審査委員・三宅理一藤女子大教授)などの評価を得ての大賞受賞だ。設計を担当した日建設計の山梨知彦執行役員(設計担当)、中本太郎設計部門設計部長と設計部門設計部の鈴木隆氏、矢野雅規氏にインタビューした。

「設計にあたってどのようなアプローチをしたのですか?」
・中本太郎 設計部門設計部長
 施設は、館長の保木将夫さんが収集した写実絵画作品を展示する美術館。保木館長からは、収集した絵画250点(現300点)を全部展示したいという要請もあり、単純に全部並べると500m以上の壁が必要になる。
 一方で、写実絵画は現代のアートシーンの中でそのポジションを見いだしにくい現状にある。しかも、法的根拠に基づく美術館でもない。また、敷地に対する保木さんの愛着がある。さらに、容積率などの制約もある。
 こうした条件の中で、絵画だけでなく保木さんのコレクションを展示するという新しい美術館のあり方を考えた結果、チューブがとぐろを巻いたような形にならざるを得なかった。一般的な美術館にみられる移動空間やエントランス、吹き抜けなどはなく、全部が展示空間となっているが、美術館として成立していると思う。

「何々らしさ、とはどのような意味ですか?」
・山梨知彦 執行役員設計担当
 「○○らしさ」というのは予定調和ということでもあり、予定調和では、創った意味を見いだすことはできない。アートの種類が違えば予定調和ではない新しい美術館を考えるのは必然だと思う。
 しかも、現在は、キュレーターの時代、言い換えると企画の時代。今回は、保木さんという個性が、写実絵画を収集・編集し、そこに新しいフレームも与えた。つまり、展示のためのハコも企画したということであり、そこでは、従来の美術館らしい予定調和的な美術館はあり得ない。

「この形の理由は?」
・矢野雅規氏(設計部門設計部)
 区画整理した何もなかった土地に美術館が先にでき、その後に美術館のある街として街が形成されてきた。さらに、用途地域の中で最も厳しい規制がかけられている第一種住居専用地域の中で、低層にし、かつ隣接する昭和の森にも開いていこうとした。
・山梨氏
 街おこしのために美術館をつくれないかと考えた。そのために、最初から弱い形をつくるつもりはなかった。“形をつくらない”という考えもあるが、予定調和的なことはやりたくなかった。
・中本氏
 中のシームレスな連続した空間から、必然性のあるかたちとして収まっていると思う。

「この設計で苦労した点は?」
・鈴木隆 設計部門設計部
 最初のイメージは2カ月ほどで決まり、そこからぶれずにブラッシュアップしていった。その中で苦労したのは、画廊や画家の既成概念をいかに突破するかだった。今回、全館で展示照明にLED(発光ダイオード)を採用した。世界でも類を見ないことだが、日々変化していく技術をどの段階で切り取って出せるかということでもあり、実験しながら確認してもらい、採用に至った。
・矢野氏
 膨大なスケッチと模型でスタディーを繰り返し、チーム4人の考えをすり合わせていったが、チームとしてやったという感じがある。
・山梨氏
 リーダーが全部を決め、他のメンバーはその下でスタッフとして動くという体育会系的なものではなく、コラボレーションのチームという感覚だ。しかも、今回のプロジェクトはこちらから「つくりませんか」と提案したものであり、意匠、構造、設備とともに、企画からオペレーションまで加えて水平展開できた。

「BIMは、どのように生かされましたか?」
・山梨氏
 2次元の図面・スケッチ、模型、BIMのメリットをそれぞれ取り込んで設計している。ホキ美術館の一部をBIMが支えていると言って良いと思う。
 また、デザインや構造、風環境について「確信」を持つことができたというメリットは大きいと思う。

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