東日本大震災からの復旧・復興工事が今後本格化していく中、これを担う建設企業は、震災前からの厳しい経営環境にあり、とりわけ地元建設会社は自身が被災するという状況にある。こうしたことを踏まえ、より円滑で迅速な復興に役立てるため、国土交通省は次々と建設会社向けの制度拡充・支援を打ち出した。このうち、公共工事設計労務単価引き上げに伴うインフレスライド条項の適用について、実例的試算を示しながら、ポイントを紹介する。
インフレスライド条項とは、国や自治体の請負契約の際に使われている公共工事標準請負契約約款の第25条第6項を指す。そのほか賃金水準や物価水準の変動で請負代金額が不適当となった時の対応としては、同条第1項-第4項までの「全体スライド」がある。また、工事材料の価格変動による請負代金額の変更には同条第5項の「単品スライド」が適用される。
今回、国交省が「全体スライド」を適用しなかった理由は、「工期12カ月以上」という適用対象の制約があり、小規模な復旧・復興工事に適用できないためだ。「単品スライド」を適用しないのは、「工事材料」の価格変動に限定されているため。
インフレスライド条項では「予期することのできない特別の事情により、工期内に日本国内において急激なインフレーションまたはデフレーションを生じ、請負代金額が著しく不適当となったとき」と適用条件を定めている。被災地を中心としたこのところの労務費上昇が急激なインフレに当たるかの判断は難しいが、今回の運用が全国の工事に適用するのではなく、あくまでも「被災3県で実施されている工事」に限定されていることがポイントと言える。
◇変更額は1%超える部分
実際に適用する主な条件は、▽残工期2カ月以上▽残工事に対する変動前後の差額が1・0%超--の2点だ。基準日から工期末までの残工事費に対し、労務費上昇などによる残工事費の上昇額が1・0%以上になれば、1・0%を超える部分が変更額として施工者に支払われる。1・0%未満の部分は施工者負担となる。基準日から工期末までが残工事で、今回の改定は2月20日を基準日とし、次回以降は施工者が適用を発注者に請求した日が基準日になる。
では、予定価格1億2000万円の工事、落札率90%、契約額1億0800万円、基準日までの出来形70%、工事に占める労務費率20%の工事と仮定して計算してみよう。
まず基準になる残工事の工事額は、出来形が70%のため、30%に当たる3240万円だ。残工事に占める労務費は648万円。労務単価の改定で労務費が8%上昇したとすると、労務費の上昇額は51万8400円だ。この上昇額は、もとの残工事費に対して1・6%に当たるため、インフレスライドが適用できる。ただし、残工事費の1・0%分に当たる32万4000円は施工者の負担のため、残る19万4400円が変更額として施工者に支払われる。
◇労務費だけでなく資材も対象
計算式は、労務費の上昇率に当たる「労務単価(官積算)×数量(歩掛かり)×契約時に受発注者が合意した労務単価の官積算単価に対する割合(この場合は上昇額51万8400円)」を残工事費に足した額(3291万8400円)から、もとの残工事費(3240万円)を引き、さらに残工事費の1%(32万4000円)を引く。
今回の改定で設計労務単価は最大で11%上昇したものの、上昇しなかった職種もあるため、現時点で残工事の労務費が8%も上昇するかは不透明だ。また労務費率が20%を占めるか、という問題もあり、残工事に対する上昇額が1%を超えるのは現時点では困難かもしれない。
だが、今後、おおむね3カ月ごとに改定する設計労務単価は、改定するたびに上昇する見通し。設計労務単価の改定の推移を注視し、改定ごとにインフレスライドが適用可能かを各企業は工事ごとに見極める必要がある。
さらに、インフレスライド条項は労務費の上昇だけに対応するものではなく、材料費の上昇にも対応する。この場合、労務費の上昇額と合わせて、材料費の上昇額も織り込んで上昇額を算出することになる。
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