2012/02/15

大林組が現場にBIMをフル投入したプロジェクト「青山大林ビル」

構造の3Dモデルで施工時の整合確認を設計段階でできる
 5年以内に設計施工案件の8割でBIMの導入を目標にしている大林組。東京都港区に建設中の「(仮称)青山大林ビル」では、設計から施工まで一気通貫で3次元モデルデータを活用する初の試みに挑んでいる。建築、構造、設備を統合モデル化した3次元デジタル総合図は施工検証にフル活用。森田康夫所長は「1つのデータを共有し合うことで、現場が1つになれている」と実感している。

青山大林ビルの現場
 現場は地下工事が始まったばかりだが、既に3次元モデルを使って構造や設備の細部にわたる施工検証を完了しつつある。森田所長は「かなり早い段階でデジタル総合図をつくり込んできたことが、フロントローディング(業務の前倒し)の効果を生んでいる」と強調する。
 鉄骨、外装、設備の協力会社は通常よりも早い時期に決め、それぞれの3次元モデルを統合する作業を進めてきた。設備のファブリケーターについては着工前に選定を終えた。統合モデルによって、施工前に詳細な部分まで干渉チェックが可能になり、外装部に採用する新制振システム『フラマスダンパー』も、デジタルモックアップで納まりを検証した。
 設計施工一貫のプロジェクトではあるが、ファサードデザインを丹下都市建築設計が担当するなど外部デザイナーとの調整も求められる。生産設計担当の長島毅工事長は「デジタルモックアップを使うことで、デザインパートナーとの合意形成がスムーズに進んだ」と説明する。通常は実物大の模型を製作して確認する必要があるが、3次元モデルの活用によって本来は見えにくい部分の納まりまで確認できる利点があった。
◇ ◆ ◇
 毎週火曜日の総合図定例会議では3次元モデルをフル活用した活発な議論が繰り広げられている。ただ、全データを統合したモデルではデータ容量が多くなり、処理スピードが遅くなる。現場でデータ連携の支援役を担う酒本明雄氏は「構造と設備、設備と意匠という具合に、必要に応じてBIMモデルを重ね合わせる工夫で、スムーズなデータ処理を心掛けている」と説明する。
 事業主サイドとの打ち合わせでも、統合モデルをベースにしたウオークスルー機能によって、現場を実体験してもらう試みを展開している。エントランスは吹き抜け空間となり、正面からのアプローチはテナント誘致の点でも重要なポイントであった。設計本部プロジェクト設計部の辻芳人課長は「CG(コンピューターグラフィックス)で詳細に描くより、むしろBIMモデルからイメージさせる方が、よりリアルに空間構成を伝えられる」と強調する。
◇ ◆ ◇
 同社では設計施工と他社設計の両案件とも、約3割の受注プロジェクトでBIMを導入しているが、まだ部分的なデータ活用に留まっている。BIM推進室の中沢英子課長は「一気通貫でチャレンジするこの現場の貴重な成果を、次のプロジェクトにつなげたい」と語る。社内では200人規模に及ぶ全店の建築構造技術者を対象としたBIM教育も始めた。
 施工者にとっては、着工前に構造のBIMモデルが活用できる利点は大きい。一般的に構造部分は建築確認申請への対応が求められるため、設計段階では2次元が主体になっている。構造の3次元モデルがあれば、施工時の整合確認は設計段階から前倒ししてできる。同社が構造技術者のスキル向上に乗り出したのも、構造領域がBIMの効果を最大限に発揮できるポイントの一つであるからだ。
 現場では、BIMデータの一貫利用について手応えを感じ始めているが、一方でデータ連携の核となる統合モデルを構築する上での課題も見えてきた。森田所長は「協力会社の選定をどれだけ早められるか。施工体制の早期確立が重要となる。条件さえ整えば着工前にデジタル総合図は完成できる」と、次なる一気通貫BIMプロジェクトへの手応えを口にする。
(仮称)青山大林ビル新築工事
▽建設地=東京都港区北青山3-6▽発注者=大林不動産▽設計・施工=大林組▽規模=S・SRC造地下2階地上9階建て塔屋1層延べ1万3,926㎡▽工期=2011年4月-13年3月▽主要ソフトウエア=意匠はArchiCAD(グラフィソフト)、設備はRebro(NYKシステムズ)、構造はTekla Structures(テクラ)

『ビルを建てる!―建設事業の仕組み入門』--AmazonLink

Related Posts:

  • 【BIM】Bentley Be Inspired inアムステルダム(2) プレゼンに望む犬飼氏 「ぜひ、取材させてほしい」。インドのメディアが飛びついた。飛びつかれたのは、ビー・インスパイアードでプレゼンテーションを終えた新日鉄住金エンジニアリングの犬飼壮典氏だ。  犬飼氏は、羽田空港再拡張事業のうちD滑走路の設計でベントレー・システムズの「SACS(サックス)」を有効活用した事例を報告した。プレゼンで容赦ない質疑の嵐からようやく解放されたところだった。つまり、それほどまでに各国から高い関心を集めたプレゼンだった… Read More
  • 【BIM】ベントレーのユーザーイベントinアムステルダム(1) アムステルダムで開かれたBe Inspired ◇Be Inspired event  IT技術を駆使したビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)が、世界的な潮流となってすでに久しい。日本の建設業界では3次元データを使った設計や施工が建築分野で先行的に普及し、今や土木分野でも本格的な活用が進みつつある。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に代表されるインフラ分野のIT技術は日進月歩で進化を続けているが、それに呼応… Read More
  • 【BIM】Bentley Be Inspired in アムステルダム(3) テイラー・ウッドローらの3Dモデル ◇インドの「グリーンシティ構想」  かつて見たこともないような近代的で美しい都市。SF映画に出てきそうな近未来都市でありながら、緑も豊富にある。ビー・インスパイアードのプレゼンテーション会場で、そんな都市の姿が3次元のウォークスルー・ムービーで上映された。インドのバンガロールを舞台とした「グリーンシティ構想」だ。最先端のエコ技術をふんだんに盛り込んだ環境配慮型都市で、国際的なオフィスビルが立ち並ぶ。敷… Read More
  • 【BIM】トプコン米子会社がオートデスクと提携 BIMで3年後100億めざす トプコンの米国子会社であるトプコン・ポジショニング・システムズ社(TPS社)は、米国オートデスク社と、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)事業で包括的な業務提携の基本合意を締結したと発表した。BIM市場では今後3年間かけて100億円の売り上げを見込んでいる。 両社は、長期にわたって開発パートナーとして協力関係にあったが、今回の提携で計測と管理、屋外作業から屋内作業に至るまで一貫性のあるシームレスな作業フローを提供する。土木分… Read More
  • 【BIM】ダクト・配管の切断面も表示 四電工が設備CADに新バージョン 四電工と富士通システムズ・ウエスト(大阪市)は、建築設備CAD「CADEWA(キャデワ)」の新バージョン「CADEWA Real 2013」を開発した=写真。2次元図面と3次元CGの画面が連動、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を実現する同製品の機能を大幅に強化した。2月4日から販売する。 高度・複雑化する設備設計情報の大容量化に対応するため64ビットアプリケーション化を図り取り扱い可能なデータ量を拡大、メモリ・CPUの制… Read More

0 コメント :

コメントを投稿