津波によって200万㌧もの土砂が堆積した相馬市磯部の水田 |
同大学が同市を実践の場として選定した背景には、地震、津波、放射線、風評の4重苦という困難な問題の解決が必要とされていたことがある。そのためには農林水産業、地域再生など地域の産業・生活にかかわる総合的な問題解決型の研究・実践が不可欠であり、研究機関、行政や農業関係機関との連携、集落・生産組合など地域を支えるコミュニティーとの連携がとれる関係の構築が求められた。
「東北はよく知っていて、福島県と縁があったことから南相馬か相馬か悩んだが、南相馬は作付けはしないと既に決まっており、相馬のほうがより実践できると考えた」
プロジェクトのコーディネーターを務める門間敏幸教授は振り返る。専門家による農業経営、風評被害対策、農地復元、土壌肥料、作物・栽培法、森林復元、栄養改善セラピー、コミュニティ再建の8チームが現場からの要請でそれぞれ機動的に活動する組織とした。
◇津波水田200万t土砂「混層」方針
プロジェクト立ち上げ当初の現地での最大の課題は津波に見舞われた水田1100haの復元策。津波などによって堆積した200万tの土砂を取り除くのか、それとも作土に鋤き込み混層にするのか。その判断が求められていた。
「土砂肥料チームの調査により、作土と混ぜ合わせる方針とした。弾丸暗渠耕で透水性を確保するとともに、除塩助材・酸性硫酸塩土壌対策として転炉スラグを活用する。用排水設備が復旧すれば、代かきによる除塩で2012年春の水稲作付けを目指す。設備が間に合わなかった場合は13年春の換金作物の作付けを。甚大な被害場所以外は田起こしをする。このような水田復興支援シナリオを作成した」
ことし1月初めに開かれた県、市、農協などとの意見交換会席上で今春の作付けに向けての緊急課題がいくつか浮き彫りになった。家屋破壊によるガラス片やコンクリート片の堆積で、トラクターでさえ入った途端にパンクしてしまう田んぼの表土をどうするか、せっかく作った米が本当に売れるのか。放射能汚染土壌をどう回復していくのか、などだ。
◇モニタリング徹底し汚染米出さない
放射能汚染、風評被害の解決へ取るべき手段、アドバイスは--。
「汚染米を絶対に出さない独自の安全・安心基準を作るためにもモニタリングは必要不可欠。モニタリングは手間暇かけても圃場の一筆単位から実施してほしい。土壌の放射性物質モニタリングシステムを開発する一方、ゼオライトの活用効果や作物のセシウム吸収効果など放射性物質の濃度を下げる技術の実証も課題となる。安全・安心確保のためのリスク管理システムの構築が求められる」
農業経営チームの聞き取りでは農地被害が大で農業機械への被害が大きいほど農業再開意欲が低い、という結果が出た。中核的農家ですら離脱や縮小する動きがある中、営農意欲の維持と増進策提案も支援メニューの一つだ。
「被災状況が多様であるだけに集落営農を合意形成することはかなり難しい。未来指向型の営農システムよりも現状維持型になる可能性が高い。復興組合(現在18組合、3年限り)を担い手中心で運営し、それを農業法人(4法人)に引き継ぐのが将来の正しい選択肢ではないか。農業基盤の復旧を大前提に、農機具の無料貸し出しに次ぐインセンティブが大事。市内の耕作放棄地を活用した水稲以外の作物生産を模索し、6次産業化の検討も推進したい。復興困難地域では、震災復興のシンボルとなる営農システムの構築、例えば施設園芸・植物工場、観光農業などを推進すべきで、大学で研究しているゼネコンにも働き掛けたい」
◇期間区切らず復興まで活動展開
地域コミュニティーとしての地域農業復興を支援するこのプロジェクト。
最初は地元からはあまり歓迎されなかった。乗り込み当初はよそよそしい雰囲気すら漂っていたという。被災農家や行政の信頼獲得の担い手となったのが、同大学生ボランティア。
「11月28日の中間報告会には300人もの農家の方が集まってくれた。学生ボランティアや案内人を務めてくれた県庁ОBの方々のおかげ。市内に拠点施設も持つことができた。このプロジェクトの期限は切っていない。復興するまで活動を広げていきたい」
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