2012/04/06

建設業向けに「除染電離則」を厚労省担当者が解説

 福島第一原子力発電所事故で飛散した放射性物質の除染作業が本格的に始まろうとしている。除染作業には建設会社があたるが、労働者の安全を確保するための規則が「除染電離則」だ。耳慣れない言葉だが、これまで経験したことのない作業を行う上で、厚生労働省が制定した。制定に携わった厚生労働省の高崎真一労働基準局安全衛生部計画課長が、建設業向けの電離則の解説として、日刊建設通信新聞社に特別寄稿を寄せた。今回、この全文を掲載する。

1・東日本大震災からの復旧・復興工事における安全衛生対策

 建設業界の皆さまには、日ごろより、労働安全衛生行政の推進に格別のご理解・ご協力をいただき、感謝申し上げます。
 現在、東日本大震災からの復旧・復興が国家的課題となっていますが、復旧・復興工事に従事する労働者の安全と健康を確保することも重要な課題です。安全衛生行政では、除染等業務に従事する労働者の放射線障害防止対策に万全を期すとともに、復旧・復興工事における重機災害や墜落・転落災害の防止を徹底していくこととしています。

2・除染電離則の制定等

 ご案内のとおり、東電福島第一原発の事故によって放出された放射性物質による環境汚染の除染等を実施するため、昨年8月に放射性物質汚染対処特措法が成立・公布され、ことし1月1日に全面施行されました。
 安全衛生行政においても、除染等の作業にあたる労働者の放射線障害を防止するため、「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(通称「除染電離則」)を昨年12月22日に公布し、特措法の全面施行に合わせてことし1月1日から施行しました。さらに、関係法令および事業者が実施すべき事項を一体的に示した、「除染等業務に従事する労働者の放射線障害防止のためのガイドライン」を策定しました。

3・除染電離則の概要

▽除染電離則は、除染等業務を行う事業者と、その事業者に雇用される除染等業務従事者を対象としています。
▽除染電離則の対象となるのは、次の2つの業務です。
 ①土壌等の除染等の業務(放射性物質汚染対処特措法に規定する「除染特別地域」や「汚染状況重点調査地域」内で、汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染にかかる土壌、落葉および落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置を講ずる業務)
 ②廃棄物収集等業務(除染特別地域等内における除去土壌や汚染された廃棄物の収集、運搬または保管にかかる業務)
▽除染電離則では、次の事項を規定しています。
 ①放射線障害防止の基本原則
 ②線量の限度および測定
 ③除染等業務の実施に関する措置
 ④汚染の防止
 ⑤特別の教育、健康診断、その他
▽除染等業務を行う事業者は、除染電離則に基づき、除染等業務従事者の放射線被ばく低減のための措置を講じていただく必要があります(罰則付き)。

4・我が国における放射線業務の質的転換

 除染等業務が本格化していく中で、放射線を扱う事業者や労働者の裾野が大きく広がりました。これまで放射線を扱う業務といえば、原子力発電所や医療機関など限られた場所で、限られた特定の会社や専門家が従事するものでした。たとえば、原子力発電所であれば、電力会社や原子炉メーカーは限られ、こうした会社の厳密な管理の下、労働者が放射線業務に従事していました。また、医療機関であれば、エックス線を扱うのは、放射線技師などの専門家です。他方、除染等作業は、限られた場所で、限られた会社や専門家が行うものではなく、作業場所は点在し、これまで放射線を扱う業務に携わったことがない会社や労働者が多数参入することが想定されます。
 こうした中、放射線を扱う業務に経験のない事業者が、労働者の放射線管理をどのようにしていくのか、労働者教育はどうするか、現場にどのように動機付けるかなど、課題が山積しています。文字どおり「ヘルメットを被るように、当たり前のこととして線量計を着けてもらう」必要があるのです。こうした放射線管理を適切に行うためには、社内の一部の担当者が片手間に勉強すれば良いというレベルでは足りず、専門部署を設けるなど、組織的な対応が必要ではないでしょうか。
 放射線は、正しい知識を持って適切に管理を行えば恐れる必要はありません。ただ、管理せずに扱うとリスクは非常に大きいものであり、将来大きな訴訟リスクを負うことにもなりかねません。そのことは、昨今のトンネルじん肺訴訟、建設アスベスト訴訟の状況を見れば明らかです。除染等業務に参入するのであれば、事業者として管理をしっかりと行う覚悟を持ってください。

5・特に元方事業者が留意すべき事項

 建設業における労働災害防止対策については、工事現場における元方事業者による統括管理の実施、関係請負人を含めた自主的な安全衛生活動の推進を基本に、その現場を管理する本店、支店、営業所等がそれぞれ工事現場への指導・援助を的確に行うことが重要であることは、いまさら言うまでもありませんが、除染等業務における放射線障害防止対策についてもまったく同じです。
 元方事業者として特に留意すべき事項について、2つ申し上げます。
 1つ目は、必要な安全衛生教育の実施です。
 放射線防護には、労働者が適切に教育を受けることが不可欠であり、新規に除染等業務に従事する者に対する特別教育については、関係請負人の労働者を含め確実に実施していただく必要があります。そのため、元方事業者として、必要に応じて、関係請負人が行う特別教育等の安全衛生教育について、場所の提供、資料の提供等をお願いします。
 2つ目は、元方事業者において、労働安全衛生関係法令やガイドラインに基づき、安全衛生管理体制を確立し、関係請負人の労働者の被ばく管理も含めた一元管理を実施していただきたいということです。
 特に、①発注者と協議の上、除染検査場所の設置および汚染検査の適切な実施を図るとともに、②関係請負人による(a)被ばく線量の測定、(b)測定結果の確認、記録および労働者への通知等が適切に実施されるよう、東電福島第一原発の緊急作業従事者が除染作業に従事する場合は線量や健診結果を厚生労働省に報告する必要があることについて、関係請負人に対して必要な指導や援助をお願いします。

6・除染等業務における安全確保対策等

 その他、除染等業務における安全確保対策として、除染等業務においては、放射線障害のみならず、各種の作業に伴う墜落・転落災害や建設機械関係災害の発生が懸念されますので、作業形態や作業に使用する機械等に応じた適切な安全確保措置を実施してください。
 熱中症対策として、除染等作業については、作業場所や作業方法等によっては、防じんマスク等の着用、長袖の衣服、綿手袋、ゴム長靴の着用を始め、必要に応じ全身化学防護服や雨合羽等の防水具を着用する必要があり、真夏の炎天下での作業において熱中症が発生することが懸念されます。夏場は相当厳しい条件で作業を行う必要があることから、こうした重装備における作業の特殊性を踏まえた、熱中症対策*の徹底をお願いします。
*クールベストの着用、作業開始前の体調確認の徹底、熱中症予防教育の実施など。

7・おわりに

 安全衛生行政としては、引き続き、東日本大震災からの復旧・復興に従事する労働者の安全と健康の確保に全力で取り組んでいくことにしています。建設業界の皆さまにも、一層ご尽力をいただき、復旧・復興工事現場の労働者の安全と健康の確保に向けた取り組みをお願いします。
 最後に、業界のますますのご発展、すべての建設現場で安全・安心して働くことができる職場環境の実現を祈念し、この稿を終わります。


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