真壁伝承館 (写真:ナカサ&パートナーズ) |
木下庸子 |
プロポーザル段階での桜川市からの要望は大きく2つあった。一つは、歴史的建築が多い場所に、新しい施設をどのようにマッチさせるかということ。「悩んだ末に、地域の既存建物のプロポーションとボリュームを抽出し、再度組み合わせるという手法をとった」(渡辺氏)。この「サンプリングとアセンブリー」というまったく新しい手法を使い、歴史的な景観とまちなみを新しい施設に継承していく。
「サンプリングしたボリュームは、かなり厳密にそのまま使った」(同)と言うように、屋根の勾配、形状は採寸したとおりのプロポーションとするなど、ルールを決めて徹底的にこだわった。木下庸子氏は「棟のジョイント部は、既存の建物に付随しているものでなくても、真壁にある建物から持ってきた」と、試行錯誤しながら組み合わせを探ったことを説明する。
◇場所性を読み解く
渡辺真理 |
驚いたことに、3グループの作業結果に多くの共通点があった。既存の公園の面積を確保し、隣接する神武天皇遙拝所(ようはいじょ)の脇をオープンスペースにしてお祭りで御輿(みこし)や山車が集まる場所とするなど「住民は意識していなかったが、WSの作業を通じて多くの人が同じようなことを思っていたことが分かった」(渡辺氏)。
場所性を読み解くことは、建築にとってもっとも重要な作業の一つだが、敷地の外と内を隔てる敷居は高い。
「これまで日本の建築は『外とは関係ない』という姿勢が多かった。敷地の内側と外側を関係させる方法を考え始めてもいい時期ではないかと感じている」(渡辺氏)、「まちなみなどの漠然とした議論ではなく、この設計手法は敷地の外との関係性をとらえる手法として、やりがいがあった」(木下氏)。建築が外に向かうきっかけになる予感が漂う。
◇素材には現代を生かす
ボリュームやプロポーションは徹底的にサンプリング結果にこだわったが、素材や表面は現代の技術を生かした。外壁の漆喰のように見える白い部分は遮熱塗料で、屋根は瓦ではなく金属屋根としている。日射の当たる外壁部分に施した杉の板張り裏の空気層は空調給排気のレジスターを隠す役割も果たしている。これらは伝統的建造物からは逸脱しており、特に屋根が瓦ではないことを疑問視する声があった。「河東義之会長(小山高専名誉教授)と藤川昌樹副会長(筑波大教授)を始めとする桜川市の伝統的建造物保存審議会のサポートがなければ実現できなかった」(渡辺氏)、「教育委員会を始め、クライアントに理解していただいた。関係者が価値観を共有できたことが、まとまりのある建築につながった」(木下氏)と、実現すべき目標を理解したチームの結束の賜と強調する。
図書館は地元の子どもたちに大人気で、常に勉強する姿がみかけられる。「住宅の延長として使ってほしかったので、とても満足できる結果」(木下氏)、「一番のユーザーが子ども。そのことがとてもうれしい」(渡辺氏)。
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