豊島(てしま)美術館 (写真:畠山直哉) |
西沢立衛氏 |
シェルの上部に空けられた穴には、ガラスがはめ込まれているわけではなく、外側と内側が直接つながる。「完全に室内にしてしまうより、半分閉じて半分開いていることで、豊島の豊かな自然環境が流れ込んでくる。建築が内部空間と外部空間をバッサリ分けてしまうより、分けながらもなおかつ外が連続する空間がふさわしいと思った」
コンクリート・シェルが内部の人やモノを守りながら、穴には光が差し風がそよぎ、鳥の声が直接外から流入してくる。「民家の屋根に鳥が住んでいたように、建築は外に対して開かれていた。ある意味で、建築の本来の姿に近いと感じている」と、開くことと閉じることの両立を目指した。
同美術館は、アーティスト内藤礼氏の作品『母型』(2010年)を展示している。個人の1作品だけを展示する美術館は珍しい。「建築の設計とアートの創作を同時に進めた。建築とアートは別のものだが、場をつくるという意味では共同設計に近い感覚だった」と振り返る。
環境だけでなくアートとの一体化も、この建築に求められた大きな要素だった。「美術館の方、内藤さん、施工者の鹿島とわれわれの4者で、月に1度くらいの頻度で定例会議を開いてきた。設計期間から工事期間まで、相当長い間、繰り返し話し合った。コラボレーションの特別な思いが詰まった作品なので、評価されてすごくうれしい」と、喜びもひとしおだ。
◇佐々木睦朗氏が構造設計
建築そのものは、コンクリートの打ち放しに撥水処理を施しただけのシンプルなつくり。しかし、直線のない自然環境と調和した形として「水滴」のような建築の実現に向けて解決すべき課題は多かった。「曲線を表現する必要があったため、自由な形をそのまま出すことができるコンクリートが最適だった」
通常の型枠では曲面がうまく表現できないため、土型枠を採用した。「土で型枠をつくり、その上に配筋してコンクリートを打設し中から土をかき出して空間をつくった。中世の大仏など、難しい形をつくる際に土を使うことは理にかなっている」と説明する。
シェル構造はこれまで、天井高の高いものが多かったが、同美術館の天井高は最高4・5mと低い。「コンピューターを使った高度な計算力によって可能になる形。これが実現できたのは、構造設計者の佐々木睦朗氏の先進的な設計アプローチによるところが大きい」と強調する。
◇瀬戸内海の産廃問題
豊島は、その名が示すとおり、緑豊かで自然の恵みにあふれた瀬戸内海の島。一方で、産業廃棄物の不法投棄問題が全国的に注目された舞台でもある。「不法投棄問題は、この島だけでなく日本全体が背負ってきた歴史の一つ。そこで浄化が進み、コミュニティー的な役割を持つ美術館が建てられた。人間は環境に負担をかけてきたが、もともとは環境の中で生きてきた。そこに戻っていくことに必然性を感じている」と、島の歴史が、破壊から再生へとつなげる日本の環境問題の歴史そのものとなっていくことを説明する。
今回の受賞は、妹島和世氏とのユニット・SANAAでの受賞を含め3度目となる。「よりよい建築を目指して毎回、迷い、苦しみながら設計をしているという点では、最初の受賞時(1998年)から何も変わっていない。最近は特に『多様性』が、建築がこたえるべき問題の一つであると認識している。当時から開かれた建築を目指しているが、開かれていること、透明感があること、多様性ということがつながっているという気がしている」
『美術館をめぐる対話』西沢立衛 著 AmazonLink
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